支援者
「戦士団を新たに作る……ということは、元々考えていた。俺がやっている仕事面からもそうした方がいいだろうという結論は出ていたし、実際支援者も同意見だった」
語り始めたエリオットに対し俺は首傾げ、
「支援者?」
「ああ、話していなかったな。俺はちょっとした縁で支援をしてもらっている人がいる……それで装備なんかを整えているわけだ」
……詳しい話は語らない感じだが、支援者によって装備が潤沢ということか。で、それと引き換えにおそらくエリオットは汚れ仕事をやっているのではないか……さすがにその点については話をすることはないだろうけど。
「冒険者になぜ支援を、と疑問に思うところかもしれないが、そこは縁としか言いようがない」
「ちょっと気になるけど……まあいい。話を続けてくれ」
「魔王討伐後、一念発起して戦士団を創設するために動き、今年開催される『聖王国杯』に目を向けたが……あまり芳しくはないな」
「エリオットは魔物や魔族と戦う人間にとっては名が知られているけど闘士はからっきしだろ。当然じゃないか?」
「色々と事前に大会とかには出場しているんだが、な」
それでも駄目と……エリオット自身、気付いていないのかもしれないが棘が刺さるような言動が気になって人が近寄ってこないのかもしれない。
「そこはまあいいだろう。問題は、支援者側から要請が来ていることだ。戦士団の創設は進んでいるのかと」
「言われてエリオットとしては面白くない気分だと」
「そういうことだ」
「……支援者、というのが戦士団設立に賛同しているのはわかるけど、言動から察するにそうした方がいい、ではなく戦士団を作れ、という命令に近い感じじゃないか? そんな雰囲気がする」
「それも正解だ」
……ますます気になったけど、言及するのはぐっと堪える。
「なんというか、大変そうだな」
「実際大変だよ。色々と支援を受けていた身からすると、その人物の意向は聞かないとまずいことになるからな」
それが誰なのかはわからないが……俺はエリオットの語った内容について考察する。
冒険者になぜ支援を、という疑問については汚れ仕事と引き換えにという点で一応説明はつく。ただ、そうまでして戦士団を設立させようと頑張っているというのは……単純に支援者に対する恩だけではなさそうだと直感する。
たぶんだけど、深い縁……例えば親類であるとか、そういう関係性であり、汚れ仕事をさせるために冒険者として活動させているのでは? そういう風に解釈すると、なんとなく彼の行動が見えてくる気がするな。
「さすがに仲間探しは相談に乗れないな」
俺はそう言いながら肩をすくめた。それと同時に注文した酒がやってくる。
「大会期間中に形にならないとまずい、ということなら上手くいくよう祈っているよ」
「どうも……再度確認だがディアス。戦士団に入る気はないか?」
「申し訳ないが今の旅が気に入っているからな」
「そうか」
あっさりと引き下がる。とはいえ、どうにかして言いくるめられないかという雰囲気も少し感じ取れる。
今後強引に勧誘を進めると、逆に大会参加者に煙たがられる可能性があるわけだけど……エリオットはその辺りを理解しているだろうか?
「なんというか、エリオットは戦士団創設と闘技大会に参加しているので、忙しそうだな」
「退屈しない毎日ではあるな」
「俺としては優勝でもしてから事を進めた方がいいと思うし、そういう風に説得とかできないのか?」
「説明は最初からやっているさ。だというのに大会期間中に形を整えろと言ってくる」
……支援者に何か思惑とかあるのだろうか?
「嘘の報告をするとかは? ほら、時間稼ぎで」
俺の提案に対しエリオットは苦笑。
「それも考えたんだが、バレる可能性が高そうだからな」
……ん?
俺はここで引っかかりを覚えた。バレる、ということは彼の支援者は大会に関連しているということだろうか?
「バレるって、監視でもされているのか? いや、さすがにそれはないか」
「直接見ているわけではないが、こういう大きな町だと支援してくれる人間に属した人物がいるからな」
「……深く詮索するつもりはないけど、支援者って役人とかそういう類いなのか?」
「そんなところだ」
成り上がりの富豪とか、そういうのではないということだろうか? ただ、今回の話でわかったことがある。戦士団設立については少なからず彼の意思だけではない何かがある。で、彼の背後にいる支援者が……その存在を暴かないと、問題は解決しなさそう。
ではどうすればいいのか? エリオットはあくまで支援者としか語っていないが、彼に近しい……もしくは、血が繋がっているような人物である可能性が高いだろう。よって、彼の素性を調べればいい。
もし何も出てこなかったら……むしろただの冒険者なのになぜ情報が出ないのか、ということで怪しくなる。うん、カトレアにはこのことを報告することにしよう――




