力の価値
森の中にいた魔物は、およそ一時間後に全て倒しきることができた。魔物の主を撃破してからは騎士達への援護の必要もなく、戦いは終結。ただそこから周囲に魔物が残っていないかを索敵する必要性があったため、数時間くらいは戦場となった森に留まり……それでも昼前には全て終了した。
「うん、犠牲者はゼロだし満足のいく結果だな」
俺の言葉にアルザも頷く。前線にいて俺が援護した騎士達に怪我はなく、後方で戦っていた傭兵とか兵士の中には負傷者もいたが、問題なく治癒できた。
「なんというか、英傑クラスの人が集まるとこうなるのね……」
そしてミリアは感服した様子で俺達を見据え呟く。
「私はほとんど出番なかったし」
ちなみに彼女は魔物の主を倒して引き上げる際に俺に近寄ってくる魔物を倒してもらった。結構疲労していたので正直助かった。
「役目はしっかり果たしてくれたし、十分だよ」
「そうそう。荒事は私達に任せてくれればいいよ」
と、アルザが同意するように告げる。そこでミリアは小首を傾げ、
「任せて……共に戦うのであれば、他者も強くなった方がいいとは思わないのかしら?」
「別に?」
「俺達が厄介な役目を背負って問題ないなら、それでいいんじゃないか?」
と、俺はさっぱりとした口調で言うのだが……ミリアはなんだか納得できない様子。
「……戦士団の人は、みんなそういう考え方なのかしら?」
「あー、さすがにそうではないよ。でも、他が弱いから足を引っ張ったんだ、とか言うヤツはいなかったな」
「いなかったわけじゃなくてそういう人は戦士団を追い出されただけでしょ」
鋭いアルザの指摘。確かにと俺は頷きつつ、
「それにほら、俺達は戦士だから、強さを誇示する方が色々と得なことが多いだろ?」
「確かにそうかもしれないけれど……」
「面倒事を引き受けるのは、それだけ強さの証明だと教えられたし」
「あの人の言葉だね?」
アルザが問う。何のことかとミリアが小首を傾げると、俺とアルザは同時に口を開いた。
『――力の価値を作る』
見事にハモると、俺達は双方笑みを浮かべる。
「アルザも感化されていたか」
「まーね」
「感化って……?」
「英傑の一人に騎士がいるのは知っているよな?」
こちらの問い掛けにミリアは当然とばかりに頷いた。
「ええ、もちろん……あの人こそ、最強の騎士にして英傑最強、だったわよね?」
「実力という点では間違いなく最強だな。まあ騎士だから魔術師であるセリーナとかと比較は難しいし、一考の余地はあるけど……ともかく、その人物から俺達は教えを受けたんだ。異名を持つに至るほどの境地に到達した俺達には、その力を利用し世界を守る義務があると」
「世界を守る……義務」
ミリアがこぼす。なんというか壮大に思えるけど――
「その人が語っていたのは心構えだ。セリーナは圧倒的な攻撃力、シュウラは策謀、アルザなんかは退魔の力による剣術……と、それぞれ役割は違えど、他者とは隔絶とした力を有しているのは間違いない。で、この力は最悪の場合、人に危害をもたらす」
「ええ、そうね」
「でも、ちゃんと心構えをしていれば墜ちることはない……と、あの人は語っていた。本当にそうなのかはともかくとして……そこからは延々と力を持つ者はどうすればいいのかという精神論的な話にもなってしまうんだが……」
「そこで出たのがさっきの言葉」
そこまで述べると、ミリアは俺と彼女を見回した。
「力の価値を作る……ね」
「俺達の強さは善にも悪にもなる。それを決めるのは他ならぬ力を持つ自分……だからまあ、自ら胸を張って生きれるような価値を作れとあの人は言っていた。で、存分に面倒事を背負えと。それが、俺達の価値向上に繋がり、仕事も舞い込んでくるし場合によっては金もがっぽがっぽ手に入る」
「……精神論と言えばいいのか、ずいぶん俗物的と言うべきか……」
「微妙なところだよな。ただまあ、戦士の中には損得勘定で考える人間もいるからな。騎士と戦士両方を丸め込んで連携させるのに、上手いこと言う必要があったという話だろ」
「それで二人は騎士の言葉に感化されたと?」
「そうだな。なんだかんだ言って、俺は割と気に入ってる。自分で望むままに価値を作れる……それこそ戦士としての生き方なんだと思った」
「私も同じ事を考えた」
アルザが俺に続いて告げる。相次いで表明する俺達に対し、ミリアは何を思ったのかしばらく沈黙した。もしかすると、英傑という領域に達した俺やアルザにしかわからない領域があると思ったかもしれない。
「……そう、わかったわ」
だからなのかこれ以上追求はしなかった。
「さて、魔物討伐は終わったけれど、これからどうするの?」
「大きな仕事があれば進んで引き受けるけど、基本は本来の目的……ミリアを送り届けるために進み続けよう」
「短い旅だったけど楽しかったわよ」
「まだまだ終わりじゃない。最後まで気は抜かないでくれよ」
俺の言葉にミリアは小さく頷く……そうして俺達は戦場を後にしたのだった。




