探り
エリオットの奇妙な一面を見た後、俺は食事をしてカトレアが待つ道場へ入った。そこで彼のことを伝えると、
「焦っている、かい」
「はい。戦士団設立を急いでいるというのは何か理由があるんでしょうか?」
「仮にエリオットが誰かの後ろ盾があって動いていると考えると、その背後にいる人物にせっつかれているということだろうね」
「……急ぐ理由があると」
「仮にその相手が魔族であったなら、彼を利用し何か計画を起こす……ということかもしれないねえ」
それはもしかすると、さらなる事件が発生する可能性もある……探りの一つも入れたいが、先ほどのエリオットが近寄りがたい雰囲気だった。俺が気安く話し掛けても話してくれるとは思えない。
「……カトレアさん、エリオットは思った以上に勧誘が上手くいっていない、ということでしょうか?」
「その可能性は高そうだ。彼は優れた剣士ではあるようだが、知名度はそれなりだ。英傑入りしていれば話は別だったかもしれないが、現状では満足のいく結果にはなっていない……ふむ、その辺りを利用して情報収集できないものかねえ」
……カトレアの頭の中で、どんな策謀が渦巻いているのか。想像してみるがただただ怖い。
正直、俺の出番はなさそうだな……そんな結論に至り、周囲を見回す。
アルザ達、大会参加者はいない。アルザは試合後に一度ここへ来て、もう少ししたら修行を開始するらしい。カインやヴィルマーも試合が終わり次第……二次予選はトーナメント形式で、二回勝てば本戦出場が決定する。戦いは明日も続くのだが……それでも鍛錬し続けるというのは、本戦が過酷なものになると予期しているから、だろうか。
「――ディアス」
カトレアに声を掛けられた。どうしたのかと聞き返そうとした時、
「アルザ達の修行に付き合う以外にも仕事をやらないかい?」
「エリオットのことですか?」
「ああそうだ。より具体的に言えば、探りを入れて欲しい」
「……正直、カトレアさんの調査で間に合っていると思いますけど」
「探りを入れる度合いについて決めかねていてね。バックについている存在が権力者であったなら、相当厄介な事態になるしねえ」
「なるほど……わかりました。とはいえ、あまり期待はしないでくださいよ」
「報酬はどうする?」
「あー、それなら……可能であればですけど、ミリアとアルザに――」
俺が告げるとカトレアは「いいだろう」と快諾した。
「今日のところは、修行内容的にディアスの出番はない。騒動もあったんだ。エリオットと接触し、情報を得るには良い機会かもしれない――」
俺はカトレアの道場を離れ、大通りを歩く。エリオットの所在についてはわからないのだが、あちこちに声を掛けている以上は冒険者ギルドで情報を得ることができるだろうとは思った。
結果としてそれは正解で、普段から入り浸っている酒場の情報を得ることができた。そこへ赴くと、エリオットはカウンター席で一人食事をしていた。
コツコツと靴音を響かせて近づくと、エリオットは振り向きもせず、
「ディアスか、どうした?」
「あんな騒動を目の当たりにしたんだ。少しくらいは情報をもらわないと気になって夜も眠れなくなるからな」
彼は振り向き、皮肉混じりに笑う。
「単に面白そうだからと首を突っ込む気だな?」
「ちょっと気になっただけだよ。一応、一緒に魔王と戦った仲だからな」
「そうか……」
俺は彼の隣に座る。食事はしたばかりなので度数の低い酒を一つ注文するだけ。
「……ああ、そうは言っても深く詮索はしないつもりだ」
注文をした後、俺はエリオットへ告げる。
「エリオットはほら、あれだ。シュウラと同じ匂いがするんだよな。下手に突っつくとヤバいものが出てくるかもしれないと」
「シュウラか……英傑と同じ扱いというのは良いのか悪いのか」
彼もシュウラのことは知っているので、苦笑した。
「ただ、彼ほど情報網を持っているわけではないし、発言権を有しているわけでもない」
「正直シュウラは例外だと思うけど……エリオットの戦士団に入るつもりはないが、魔王と戦ったよしみで相談くらいは乗るぞ、と言ってみるわけだが」
「修行の方は順調なのか?」
「情報集めに余念はないみたいだな。とりあえず今日のところ、俺の出番はなし」
「だからこちらに来た、と……まあいい」
彼は食事を終えた。そして俺と同じ酒を注文する。
「大会はいいのか?」
「今日は既に終わっている……明日の戦いに支障がない程度に飲むさ」
「そちらはやけ酒みたいな雰囲気だな……戦士団、勧誘とかが上手くいっていないのか?」
「何か思うところがあったみたいだな」
「そりゃあ最初と比べ態度が硬いからな……ま、無理に話さなくてもいい。言うのが嫌なら、魔王との戦いでも振り返るか?」
「それも多少ながら興味はあるが……そうだな、一つ質問をしようか」
そう述べ、エリオットは俺へ向け尋ねた。




