五感と魔力
鍛錬を開始した日、二次予選の組み分けが発表された。アルザ、ヴィルマー、カインはそれぞれバラバラとなり、エリオットととも同じ組み分けにはならなかった。二日間の一次予選を通してそれなりの人数が二次予選に辿り着いたらしく、ここからさらに本戦出場へ向け選定が始まる。
とはいえ、情報を得た限りアルザ達の相手については技量を十分発揮できれば問題ないレベルとのこと。とはいえ対戦相手の戦術などを頭に入れつつ……俺はアルザ達の訓練に付き合うことに。
「ふっ!」
強化魔法によってどうにか立ち回れるようになった俺の杖がカインの体を掠める。相手はすぐさま反撃に転じ、俺はどうにかこうにか防いで後退する。
……正直、歴戦の闘士相手に分が悪すぎる勝負ではある。これが闘技場の戦いであったなら瞬殺されるところだろう。決戦術式を使えば技量面においての差は埋まるとは思うけど、さすがにあれを使ってどうにかというのは、体に負担もあるので避けたい。
で、カインはさらに迫ってくるわけだが、ここで杖先から魔法を放つ。指向性のある雷撃であり、カインは即座に剣をかざす。魔力をまとわせ、俺の雷撃を防ぐつもりのようだ。
雷光が訓練場を包み視界が一瞬真っ白になる。そうした中で俺は魔力を探りカインの位置を把握。杖を突き込んだ。
相手は……距離を置いたらしいが、俺の杖はカインの動きを逃さない。その間に視界は戻ったがカインは険しい顔をしながらなおも後退。先ほどの接近戦で保っていた有利はなくなった。
「……大変そうだな」
俺はそんな風に告げると、カインは頭をかく。
「正直、闘士同士の戦いで露呈するような動きはしていないが……思った以上に、意識しないといけないな」
彼のそうした言葉に俺は視線を合わせつつ、
「魔力で相手の動向を探る……闘士だからこその問題というわけか」
――アルザの弱点を見つけた後、俺とカインが模擬戦闘を行いカトレアが彼の弱点を発見した。というより、これは闘士共通の特性と言えるのかもしれないが、どうやら闘士は五感を頼りに戦うため、あまり魔力を探るといったことをしていない。よって先ほど雷撃により視界が悪くなると、動きが多少なりとも悪くなる。
常日頃魔物などと戦っている俺なんかは、五感よりも魔力に頼って戦う。もし魔物の接近に気付かなかったら命を失う可能性がある……そう考えれば、必ず魔物が発露している魔力を頼りに気配を探るというのは当然のことだ。
一方で闘士は人との戦いであるため、魔力を探って居所を見つける必要がない。何せ相手は真正面に立っているわけだから。闘士として活動する魔術師とかの中には透明になったりして攪乱する人もいるらしいのだが、五感を極めた闘士はほんの少しの違和感すら感じ取る。透明になれるような魔術師が闘士として有名になっていないことを踏まえれば、こういう手が通用しないことは自明の理だろう。
魔力を探りながら相手の動きを読むという戦い方をしている闘士もいるらしいのだが、それは基本少数派とのこと。理由は魔力を読むという行為を逆手にとって騙そうとした輩がいたためらしい。
人間であればそういうことだってやってくるだろうな、と妙なところで俺は感心した。結果、魔力探知については相手が何かしていないかを探る程度に留め、基本は五感を利用して動きを読む形が主流となった。極めると身じろぎ一つで動きが読めるくらいにはなるらしく、ヴィルマーやカインなんかはその領域らしい。
で、先ほど俺が放った雷撃の魔法……一瞬の破裂音と視界が白く染まる閃光。五感のうち二つが瞬時に使い物とならなくなる……まあ、カイン達のレベルであれば多少視界が効かなくなろうとも問題なく戦えるのだが、相手が達人級であれば話は別だ。
「闘士共通の弱点、と言ってもよさそうだが……エリオットは当然気付いているだろうな」
「そうだな。魔物や魔族と戦ってきたからこそ違いがわかるため、付け入ることができる……これを打開するためには当然魔力を探る手法を取り入れ、さらに動きを読めるようにすることだが」
「カトレアが言った通り、付け焼き刃にしかならなそうだけど」
「もう少し、訓練させてくれ。それで違和感なく対応できるようにする」
……明確に弱点となりそうな点を見つけた後、カインは率先して鍛錬に励んでいる。その理由としては、エリオットとの戦い……いや、それだけではなく、これを放置すれば他の本戦出場者相手に後れを取るかもしれないと認識している様子だ。
「二次予選終了から本戦まで……それなりに時間はある。ただ予選をこなしながら修行する形になるけど、カインは大丈夫なのか?」
「問題はない。むしろ体を動かしていた方がいいくらいだ」
俺は周囲を見回す。ヴィルマーはミリアやボニーを相手に色々動き方を検証している。一方でアルザはカトレアが指導している……なんというか、闘技大会じゃなくて魔族討伐にでも行くような重々しさだな、と俺は思った。




