残された時間
「アルザとのやりとりで気付いたのはカトレアさんだけか……ある程度、隠せてはいるみたいだな」
「とはいえ、エリオットは気付いているかもしれない」
そうカトレアが応じると、ヴィルマーは肩をすくめた。
「であれば、厄介な事態になりそうですね」
そんな様子を見て、俺は彼へ問い掛ける。
「ヴィルマー、何を隠している?」
「あー、そんな大した話じゃない……俺のことは語ったと思うが、今回出場するのはもう一つ理由があってだな」
そう言いつつ彼は苦笑し、
「まあ、医者からいずれ剣を振れなくなると言われているんだよ」
「……は!?」
「といっても、病気じゃない。色々と怪我をしてきて年齢と共にその影響が出始めたってところだ」
「大丈夫なのか?」
「この大会でどうにかなるような話じゃない……まあ、残された時間はそれほど長くはないことを理解し、俺の剣を大会に刻んでおこうと出場を決めたわけだ。それで、カトレアさんが気付いたように、古傷の影響で動きに癖が出てしまう」
「そういうことなのか……けどエリオットは観戦しているとして決着は一瞬だっただろ? さすがにそこまで気付くか?」
「二次予選中に気付くかもしれないな」
という冷静な言葉に俺は押し黙る。
「戦士団を結成しようとしている以上、現段階でも予選を観戦する人員は用意しているはずだろう。その人物が俺のことに気付くかはわからないが……ま、わかるという前提で動いた方がいいのは事実だな」
「具体的な対策とかはあるのか?」
そんな疑問に対しヴィルマーは沈黙。それに対しカトレアは、
「さっきも言った通り、付け焼き刃の技術じゃあ逆に足下をすくわれるかもしれないねえ。ただその点について考察し、きちんと分析することで立ち回りを変えても今まで通り戦える方法を考察できるし、戦いに利用することもできる」
敵が弱点を突いてくるのであれば、それを狙ってきた際に手痛いカウンターを食らわせるというわけか。
「次にアルザ」
納得していると、カトレアはアルザの名を呼んだ。
「先ほども退魔の能力を行使していたね?」
「うん」
「けれど効果はなかった……あくまで鍛錬における剣のやりとりだから魔力を用いることはなかったため……だが、それでもあえて退魔の力を行使していた」
「そうだね」
「……というより、半ば無意識に力が出るという認識でいいのかい?」
その質問に対しアルザは首肯した。無意識、か。
「ふうむ、魔物や魔族相手であれば退魔の力は腐ることがないし問題はないだろうが、人間相手であったら厄介だね」
「厄介?」
「もしエリオットが戦うとしたらどういう戦法をとるのか……アルザの剣術に隙は極めて少ない。無理に差し込んでもいなされて終わりだろう。ただ、退魔の力……それを常時使っているとなったら、当然長く戦えばボロが出てくる」
……長期戦に弱いということか? とはいえ、アルザが使う退魔の能力で消費する魔力はそこまで多くはない。
「いくらか大会に参加している以上、退魔の力を発揮し続けていることはつかんでいるだろう。カインは聞き込みをすれば情報は得られるだろうから、二人についてはエリオットは弱点をつかんでいるという認識で良いだろう」
「あの……」
ここでミリアが小さく手を上げながらカトレアへと質問した。
「使い続けることが弱点になるんですか?」
「魔力を消費し続けるという点が問題なのさ。魔力量が最大の時と半分の時では動きそのものは変わらないにしても精神的な影響が確実に出てくる。魔力が尽きれば負けが確定する以上、攻撃しなければという心理が働き無理な攻めに出てしまう」
「エリオットはそれを利用して……?」
「アルザは出場した大会にて、全て短期戦で勝負をつけてきた。退魔の能力を使えば、魔物相手でも短期戦に持ち込める。けれどもし、長期戦になったらどうなるか……? そこに魔力自体を削る技や魔法があれば、アルザにとっては不利になるねえ」
そうしたカトレアの言葉をアルザは神妙な面持ちで聞いている。
一次予選時点では、アルザ自身本戦まではいけるだろうという見込みは持っているはずだし、彼女の技量であれば俺だってそう思う。とはいえ、本戦でエリオットと戦った場合、どうなるのか。
黙り続けるアルザに対し、俺の方がカトレアへ向け問い掛ける。
「カトレアさん、解決策とかはあるんですか?」
「確認だがアルザ、退魔の力だけを引っ込めるということは可能かい?」
「できるとは思うけど……」
「いやいや、無理はしなくていい。無意識に発動しているとなったら、剣術面においても退魔の力は紐付けされているはずだ。よって、無理に戦法を変えると今度はそこを突かれるだろう」
「それじゃあ、どうするの?」
「力押しは難しいため、長期戦に持ち込んでも問題ないように準備をしておくくらいか……アルザ、退魔の能力について試合に出て検証していたはずだね? 何か気付いたことはあるのかい?」
「……一応」
「なら少し相談といこう。アルザほどの技量なら既存の戦い方をしながら、相手の意表を突く戦術が編み出せるかもしれない――」




