戦術の対策
「エリオットもそうだが、堅実かつリスクを少なくしながら戦う人間というのは、どういう戦法をとってくる?」
カトレアはまず俺達へそう切り出した……アルザ達はしばし考え、その間にカトレアは俺へと目を向ける。
「ディアスはわかるかい?」
「一応……エリオットは継続的に情報収集をしているでしょうから、戦術としては相手の弱点を突く形になると思います」
「そうだね。つまり、これまでの戦いぶりや色々な話を聞いて弱点を考察し、そこを突いて勝つ……特にアルザについては小規模な戦いに出場しているため、エリオットはその戦いぶりを見ている可能性は高いだろう」
「このまま戦うと不利になるってこと?」
アルザの疑問に対しカトレアは首肯する。
「そういうことだね。とはいえあくまで不利になるだけであり、決定的な勝因となることはないだろう。ただし一次予選の戦い方を見るに、情報がなくとも戦闘中に相手を分析して戦うこともできるはずだから、事前情報と戦闘で分析し、勝つ……単に情報を秘匿するだけでは対策にならないだろうね」
「えっと……私達は何をやれば?」
「エリオットが構築した戦術を打破して有利を得るには、相手の思惑を外すような戦術を開発するか、あるいは単純に彼の力を大きく上回るか」
カトレアがそこまで語った時、次に口を開いたのはカインだった。
「英傑入りさえ噂されるくらいの人物である以上、力を大きく上回るというのは辛いのでは?」
「ああ、それは同意見だ。そもそも本戦までそう長い期間があるわけでもない……付け焼き刃で新たな技を身につけるにしたって限界があるだろうし、意表を突くにしてもよほどのものじゃない限りすんなり勝たせてはくれないだろうね」
「話を聞いている限り、打つ手はないように思えるが」
カインが腕を組みながら言及すると、カトレアはニヤリとした。
「やれることはあるさ。とにもかくにも、エリオットの戦術に体を慣れさせておくところから始めようじゃないか」
「何?」
「相手はリスクを避ける戦い方をしながら弱点を突く。つまり逆を言えば無茶な突撃はしてこないという話さ。そこを考慮し長期戦になることを想定。ガッチリ組み合って戦うことを念頭において、鍛錬をする」
「なるほど、戦い方そのものに慣れるということか」
「既に達人級のカイン達なら、本戦までには慣れることはできるだろう。けれどエリオットくらいの実力者対策である以上、相手も十二分な使い手でなければいけない……そこで、ディアスなんかが活躍できる」
「……まあ、そういう戦い方はできなくもないけどな」
肩をすくめつつ俺は応じる……なるほど、カトレアの魂胆については理解した。
「俺やミリア、ボニーなんかがリスクを冒さない慎重な戦い方をやって、アルザ達は経験を積むと……ついでに魔法対策もするといった感じですか?」
「ああ、そういうことだ。ヴィルマー、それでどうだい?」
「賛成で」
彼もまた同調し、鍛錬は始まる。ただし、その前に――
「弱点というのを見つけ出しておくかい?」
カトレアの問い掛けに対しアルザ達は互いに顔を見合わせた……まあ、大会で戦うかもしれないのに弱点なんて知られたら面倒、ということになりかねないわけだが、
「……ま、別にいいか」
と、ヴィルマーは応じた。
「それに、こうして一緒に鍛錬するわけだ。剣を打ち合っている間に何かしら気付いてしまうだろ」
「そうだねえ。というわけでまずは、出場者同士で戦ってみてくれるかい?」
その間にカトレアが考察するというわけか……出場者が話し合い、まずはアルザとヴィルマーという組み合わせになった。
俺としては多少なりとも興味がある……果たしてアルザはヴィルマーとどう戦うのか。
「――始め!」
カトレアが告げる。同時、アルザは一気に間合いを詰めてヴィルマーへと肉薄した。相手は間違いなく戦士としてトップクラスの実力を持っているが、鍛錬ということで臆さず攻撃を仕掛けた。
そして放たれた斬撃をヴィルマーは受ける。衝撃が確実に存在したはずだが、彼は身じろぎ一つしなかった。
単純にアルザの力が足りないか……いや、この場合は彼女の方も適度に力を抜いて相手の動きに合わせられるよう余力を残していたか。
刹那、両者の剣が幾度となく高速で激突し、鍛錬場に金属音が響いた。双方とも全力というわけではないだろうが……目でその動きを追うのが精一杯だ。
横を見るとカインも二人の攻防を注視している……もし自分ならどう動くのか、そういうことを想像しているのかもしれない。
やがて、アルザ達は距離を置いた。一度仕切り直しという形になったが……俺はアルザへ視線を送る。単純な剣術の応酬という雰囲気だったが、彼女が持つ剣には魔力が宿っている。退魔の力を使っていたのは間違いない。
それは今の攻防で何かしら役立ったのかどうか……すると、
「ああ、ある程度理解できた」
カトレアが発言。短時間の攻防ではあったが、何かをつかんだようだ。
「ヴィルマー……そっちは、厄介な事態になっているね」
「気付きましたか」
何が? と疑問を抱いた矢先、他ならぬヴィルマーが口を開いた。




