一次予選後
「――というわけで、無事アルザは一次予選を突破し、数日後に始まる二次予選に進んだわけだが」
という前口上を俺が言い終えるよりも早く、宴会が始まった。ちなみにメンバーは俺とミリアとアルザに加え、カトレアとボニーとヴィルマーという前回食事をしたメンバーそのまま……に加え、
「……何故いる?」
「誘われた。面白いものだな」
カインまでいる。そして前と同じ個室の店で食事をしている。
夕刻まで一次予選は続き、俺は全ての試合を観戦した後にアルザと合流。まだ一次予選だけど食事のグレードを高くするかということで店を探していたら、先日と同じようにミリアがカトレアを伴いやってきた。ならば同じ店でということだったのだが、偶然――いや、たぶん俺達が前と同じ店に来るという予想はしていたのだろう。同じく今日一次予選を突破したヴィルマーがカインを連れて待っていたというわけだ。
「というかヴィルマー、この店の前で待っているとは俺達の行動を呼読んでいたんだよな?」
「それはもちろん。予選を勝ち上がったということで宴会の一つでもするだろうという予想で」
「……タダ飯を食いに来たと」
「カトレアさんは別段気にしないしいいだろ」
「そうさね」
と、カトレアが言う……ちなみに前回も今回もカトレアが食事代を支払っている。
「大きなイベントだから、出場者に少しは良い思いをさせてやらないとねえ」
「……単にアルザのことが気に入ったからでしょう」
「おや、バレたか」
「ちなみに門下の人達はどうでした?」
「今日はおよそ半数が戦って、その半分が勝ち残った」
「半分……カトレアさんの門下生でも半分ですか」
「例年と比べても敵が強いね。明日は使い魔が変わるし、明日は明日で違いがあるかもしれないが……確実に前回大会と比べ予選の突破率は低いだろう」
「確かに、今回は強かったな」
と、ヴィルマーが言う……が、俺はそこで発言した。
「カインやアルザは瞬殺だったんだが、どうせヴィルマーも瞬殺だろ?」
「そうだな」
「なら強いとかあまり感じないんじゃないか?」
「いやいや、斬った感触とか結構硬かったぞ」
「そういう強さかよ……カインはどうだ?」
「ああ、そういう意味では強かった」
「……アルザは?」
「まあまあ」
……うん、この場にいる出場者は全員化け物クラスということであまり深く考えない方がよさそうだ。
俺がそんな感想を胸中に抱いていると、カインは興味深そうに口を開いた。
「しかし面白いな。退魔の剣士アルザとヴィルマーが同郷だとは」
「別に隠しているわけじゃないぞ?」
「わかっているさ……敵の強さから考え、一次予選を突破した時点でかなりの強豪揃いになるだろう。この場にいる面々は俺を含め十二分に本戦を狙えるはずだが、足下をすくわれないように注意した方がいいな」
「わかっているさ」
「――ところで、ヴィルマー」
俺はなんとなく彼へ尋ねる。
「カインと知り合いなのか?」
「あー、聖戦士候補、ということで括りにされることがあるだろ? どうせならそういう面子が集まって何度か一緒に酒を飲んだことがあるんだよ。ま、仲間というほど連帯感はない。精々飲み友達くらいだな」
「意外とフランクなんだな。聖戦士候補ってことは、闘技場では火花を散らしているわけだろ? なんだか険悪になりそうだが」
俺はカインへ視線を投げる。闘士、というカテゴリだとヴィルマーよりも彼の方が詳しいだろう。すると、
「……日頃から戦っていると、仲が悪い人間はどうしたって出てくるが、場合によっては冒険者ギルドを通して一緒に仕事をするようなケースもある」
「ああなるほど。であれば、仲はむしろ良い方がいいのか」
「闘技場内では情など見せず戦うわけだが、外に出れば苦楽を共有できる知り合いといった感じになるな」
この辺りは闘士独特の事情なのかもしれない……俺はこの町にいる戦士の一端を理解しつつ、カインへ言及する。
「そういえばカイン、エリオットから話をされていたが」
「ん? ああ、見ていたのか。闘技大会の参加者ということで戦士団に入らないかと声を掛けられたな。条件もなかなか良かった」
「好待遇が約束されていると」
「あの条件なら聖戦士の中にはなびく人間がいそうだな」
「そうか……」
「何かあるのか?」
「いや、まあ」
「そこはこっちが話すさ」
と、カトレアが割って入ってきた。
「カインが話せばおそらく他の闘士も耳を傾けるだろう。ちょいと頼みたいことがあるんだが」
「俺でよければ」
そして二人して何やら話し始める……エリオットの勧誘について、闘士に何かしら対策をしておくということか。もしかして一緒に食事をしたのは、それを頼むためか?
「アルザ、少しいいか?」
そんな折、ヴィルマーもまたアルザへ何事か話し始める……ワイワイと騒ぎ立てる中、俺は明日どうしようかなあと悩みつつ、食事を進めるのであった。




