聖戦士候補
『次の戦士はご存じの方も多いでしょう――前回の大会で八強に至り聖戦士の称号を得た人物。その名はカイン=ローベド!』
カイン――そう告げられた人物を注視すると、長剣を既に抜き放ち臨戦態勢をとっている青い髪の戦士だった。
その髪も肩くらいまで伸ばされており、加えて顔立ちはどこか中性的……やや線も細く先ほどの二人と比べても力という点では劣っている感じだが。
使い魔が出現する。そしてすぐさま試合開始の宣言が成されると――カインは動き出した。
それは流麗であり、使い魔は即座に迫るカインへ剣を振った――のだが、彼はその剣をかわし横手に回った。一瞬の出来事であり、使い魔の騎士は咄嗟の対応が遅れた。
「……なるほど」
俺は使い魔の挙動を見てどういう特性なのかを理解する間に、カインの剣が使い魔の首筋へと放たれ、頭部を切断した。
ザシュ――と、斬った音が響き首が地面へと落ちる。一瞬、何が起こったのかと観客の声が収まったかと思うと、すぐさまカインへの歓声へと変わった。
勝負はあっさりとついた……カインは使い魔の特性を把握していたわけではないだろうが、それでも接近戦に持ち込んであっさりと倒すことができた。これは明らかにカインの実力が使い魔のモデルとなった騎士を大きく上回っていることを意味している。
「騎士が動き出すより前に迫り、その挙動を察知して一気に斬る……理想的な戦い方ではあるな」
俺は感想を述べつつ、使い魔に関する考察を深める。カインが横手に回った際、騎士は動きを止めた。それは間違いなく視界で捉えていたカインを見失ったためだ。
もし見えなくなったら魔力を感じ取って動く……という戦術に変更するのだろう。その切り替えは二戦目を見る限りスムーズに行われるはずだが、カインの動きが速く戦術の切り替えよりも先に彼の刃が届いたため、先ほどのような結果となった。
そしてカインの名を俺は思い返す。冒険者ギルドで出場者を調べていた時、記憶した人物の一人だ。
「少なくとも『聖戦士』となる可能性が高い人間……候補だったな。そのクラスになったら、あの使い魔は楽勝か」
呟く間に四戦目が始まる。観客はなおも歓声を上げ、戦士を応援する。そうした中で俺は声を放つことなく、ただひたすらに試合の状況を見続けた。
時刻は昼近くになった段階で、一度休憩ということとなった。出場者は結構な人数がいるらしく、こうした形式の予選が明日も続くらしい。
あと会場で小耳に挟んだのだが、一日目と二日目の使い魔は変わるらしい……二日目の人間は対策とかできてしまう可能性があるからカンニング防止のためだろう。アルザはまだ闘技場内で待機しているだろうけど……昼には出番が来るかな?
「俺も食事にするか」
ずっと座って観戦していたので肩とかが固まっている……軽くストレッチなどをしつつ、俺は会場を出た。
「――あれ」
そこでエリオットの姿を捉えた。反射的に俺は彼の視線を避けるように移動……で、彼と話をしているのは三戦目で見事予選を突破したカインだった。
「優勝候補ということで声を掛けたか……」
とはいえ当のカインは感心がなさそうに見えるけど……やがてエリオットはその場を立ち去った。彼も予選に参加しているわけだけど、出歩いているということは明日なのだろうか?
姿が見えなくなったタイミングで俺は歩き出す。ここに滞在してそれなりの日数が経過しているのでどこにどういう店があるのか、大通りくらいはわかる。今日はどこで食べようかなあ、などと思っていると、
「……ん?」
カインが、俺へ向け近づいてきた。いや、単にこっちに歩いてくるだけかと思ったりもしたのだが、
「少し、いいか?」
話し掛けられた。俺に用があるらしい。
「七人目の英傑……ディアス=オルテイルさんだな?」
「……別に異名は必要ないよ。ディアスでいい。えっと、何か用か?」
「今日観客席にいるのを見て話がしたかった」
……うーん、これどうしよう。たぶん彼自身は英傑という括りになっている俺に興味を抱いているということだと思うんだが。
「あー……何が聞きたいんだ?」
「他の英傑について」
もしかして、英傑になろうとしているとか? そんな疑問を抱くとカインは俺が考えていることを察したのだろう。
「ああすまない、別に英傑入りを目指しているわけじゃない。単純な興味だ。英傑というのがどういう存在なのか」
――と、ここで俺は周囲の気配が変わっていることに気付いた。俺のことを知っている人間も多少いることに加え、観客が沸くくらいには有名なカイン。何事かと視線を向けてくる人が多い。
これは場所を移すべきか……などと考えた時、カインに絡む戦士の姿が。
「おいカイン、抜け駆けはやめろよ! そういう話なら俺も混ぜろ!」
……ああ、なるほど。魔王との戦いとか、そういうのを聞きたいということか。戦士の言葉を契機に、さらに近づいてくる戦士の姿もある。これは、逃亡しても面倒かなあ……などと考え、俺はカインへ向け口を開くことにしたのだった――




