使い魔の強さ
初戦の戦いは使い魔の勝利に終わったわけだが……俺は先ほどの攻防を内心で考察する。
「想像以上に厄介な相手だな、あれは」
呟く間に使い魔が消えた。すると、再び闘技場内が発光して騎士が生まれる。一回ごとに再作成するらしい。
そうした光景を見つつ俺は考える。まず、魔力は無尽蔵というわけではない。魔法などによって魔力を消費したらそれだけ使い魔の魔力は減り続ける仕組みのようだ。おそらく魔力が減ればパフォーマンスは落ちるはずで……これは人間にとっての体力を再現しているのだろう。長期戦に持ち込んで勝利するのはありだ。
ただ剣を操る技量は高く、剣に魔法を付与して放つという器用なこともできる。長期戦に持ち込むということは、当然騎士の魔法や剣術を真正面から受けなければならないわけで……出場者の何割が、あの攻撃に対処できるのか。
やがて二試合目が始まる。今度は長剣を携えた男性戦士。一試合目を見ていたかはわからないが、開始の合図と共に戦士は迷うことなく使い魔の騎士へと仕掛けた。
すると騎士はそれに応じつつも剣には魔力を注ぐ……すぐさま剣による攻防が始まった。その応酬はかなりの速度で、観客がどこまで認識できたかはわからない。だが、目にも留まらぬ速さで繰り出されるやりとりに再び歓声が湧いた。
戦士としては短期決戦に持ち込みたかったのかもしれない……が、使い魔はまったく揺らがなかった。どんな騎士を参考にしたのかはわからないが、打ち合うその動きはまさしく騎士における正道。奇をてらったものではなく、相手を真正面から受けきる剛の力と相手の力をいなす柔の剣……その二つを併せ持っているのは間違いない。
しばし両者は火花を散らし剣を打ち合っていたのだが……やがて使い魔が左手をかざした。直後、手のひらから火球が生まれる。それを放つ寸前、戦士は足を後方に移して一気に距離を置く。
そこへ使い魔の魔法が放たれる――戦士が剣を薙ぎ払うと、爆発音と共に粉塵が生じ戦士の姿を覆い隠した。
ここで、選択肢は二つ。視界が遮られている中で突撃を仕掛けるか、あるいはさらに距離を置くのか……この状況だと戦士としては前に出る可能性が高い。なぜならさらに逃げたとしても追撃の魔法が来るだけだ。使い魔による魔法は無詠唱であるため、距離をとって魔法を放つ隙を見いだすことも難しく一方的に攻撃されるだけになる。
俺の予想は……どうやら当たったらしく、粉塵が舞う中で戦士が前進するのを魔力で感じ取る――のだが、ここで使い魔が思いも寄らぬ行動に出た。視界が効かない状況下で、粉塵が舞う場所へ突撃したのだ。観客は驚いたが……俺は違った。使い魔に視界があるのかわからないけど、魔力を感知して戦っているのは間違いないので、視界に頼らず突撃してもおかしくないと考えた。
ここで戦士が姿を現した。彼は使い魔がいた場所に真っ直ぐではなく横へ迂回する形で移動したのだが、肝心の使い魔がいなかったので立ち止まる。
そこで、使い魔が戦士を追い掛けて飛び込んだ土煙の中から飛び出した。すぐさま戦士は応じるが、その表情は驚愕したもの。なおかつ完全に体勢を整えることができなかったのか、
「ぐっ!」
剣が弾き飛ばされ、戦士もまた倒れ込んだ。そこで実況の声が響き、試合は終了した。
観客はまたも声を上げ、俺の隣で観戦をしていた男性は大きく息を吸った。どうやら呼吸するのを忘れていたらしい。
「おいおい、今回用意された敵は相当強いぞ!」
そして別の観客が友人に向け声を張り上げるのが聞こえた。
「三年前も見ていたけどな、明らかにレベルが上がってる。だって二人目の剣士は前回一次予選は突破している――」
……どうやら、観客の予想以上に使い魔が強いらしい。俺はその原因を少し考える。
作成した使い魔――その基準となった騎士が単純に強いということが原因なのだが、ではなぜその騎士を採用したのか。俺はここで近年の騎士団について考察する。
使い魔を作成しようと準備をしたのは……さすがに短期間では無理だろうから、少なくとも一年前くらいから準備は始めていただろう。一次予選に見合った騎士は誰なのかを考察し、その人物のデータをとったはずで……俺は戦士団に所属していた際の情報で、近年騎士団のレベルアップを図っていると聞いたことを思い出す。
これは魔王が侵攻する前、魔界側で動きがあるという情報をキャッチし、騎士団が危機感を覚え訓練量を増やしたことにある。つまり、その状況下で騎士からデータを取った……結果、かなりの技量を持つ使い魔が誕生したのではないか。
「魔王との戦いが影響している……と、言ってもいいかもしれないな」
だとすると、思った以上に一次予選通過者は少なくなるのだろうか? 正直、二戦見た限り使い魔は結構強い。剣と魔法両方に対応しなければならないし、厄介極まりない。
アルザやヴィルマーは問題ないにしても……そんなことを考えていると三人目の戦士が闘技場内に姿を現し――これまで以上の歓声が、会場を包んだ。




