一次予選
情報収集を行った以降は特段騒動もなく、いよいよ『聖王国杯』が始まった。まずは予選からであり、俺はチケットを手に入れて観戦することにしたのだが、
「さすがの人だな」
メインの闘技場ではなく、いくつか存在する中程度の大きさを持つ闘技場……そこで予選が行われるのだが、この会場は満員御礼――いや、今はどの会場も満席ということだろう。
観客席へ座り始まるのを待つことにする。ちなみにミリアは今日もカトレアと鍛錬。本戦から観戦する、ということになっている。
観客はざわつき、今か今かと待ちわびている状況……そして、
『――お待たせ致しました。ただいまより聖王国杯、予選を開始させて頂きます!』
実況の声が聞こえてきた。音声を拡張する魔法によるものだ。直後、観客は沸き立って腹打つような轟音となった。
『最初に、予選の方式から説明しましょう。聖王国杯では出場登録を行った方々にはまず、国が用意した使い魔に戦ってもらいます。今回用意したのは――』
言うと同時、闘技場の中心、つまり戦士達が戦う舞台の床が発光し、魔力を伴って何かが形を成した。
どうやら闘技場そのものに細工をしているらしい……ずいぶんと手の込んだことをやる、と思っていると出現したのは頭部を含め全身を白銀の鎧で身を固めた騎士だった。
『これはとある騎士の特性を模した使い魔となります。それが誰なのかを含め情報は非公開であり、闘技場に設置された魔法陣を使うことで発動する、この大会の特別製。まず戦士達にはこの騎士を打ち負かして頂きます』
観客達は突然現れた白銀の騎士へ視線を送る……俺はじっとその騎士へ視線を送る。
魔力は確かに大きい。なおかつ、まとう気配も使い魔だというのに風格がある……さすがにクラウスレベルではないにしろ、なかなかの騎士を模したものだと予想できる。
『それでは早速始めましょう! 最初の戦士は――』
実況の人間が名を呼ぶと、その戦士が登場する。歓声で闘技場内が満ちる中、戦士は騎士と対峙する。
戦士の得物は大剣。一方で白銀の騎士は長剣……筋骨隆々の戦士はその見た目からも力自慢であることは明白で、魔力強化を活かした大剣の一撃は恐ろしく速く、開始の合図と共に騎士へ向け一瞬で接近し叩き切る……そういう戦法で戦うだろうと予想できた。
『――始め!』
実況の掛け声音共に、いよいよ試合が始まった。途端、戦士は声を上げながら大剣を握りしめ騎士へと接近。跳ぶような移動と共に肉薄した戦士の動きに、多くの観客が驚き声を張り上げた。
使い魔である白銀の騎士はどうするのか――騎士は即座に防御の姿勢を取った。剣を盾にしてまずは戦士の大剣を、受ける。すると戦士の膂力が上回っていたらしく、騎士は弾き飛ばされた。
数メートルは物理的な力で後退する騎士。一方で戦士は好機だと判断したかなおも足を前に出し追撃を仕掛けた。再び肉薄する両者と、二つの刃。放たれた戦士の斬撃を、白銀の騎士はまたも剣で受けた。
ガァン――甲高い音が歓声を響かせる闘技場で響いた。そこで戦士は立ち止まった……というより、大剣を騎士が長剣で弾き受け流したため、使い魔の力に驚いている様子だった。
どうやら使い魔も相当な能力――戦士はそこで決断し、大剣を引き戻すと後退を選択。単純な力押しでは勝てないと判断した結果だろうけれど……騎士はそこで間合いを詰めた。
もし戦士が受け流した直後、即座に後退していたら追撃はしてこなかっただろう……そんな感覚が俺の中に生まれた。同時、騎士の剣が戦士を捉える。彼は大剣でガードしたのだが……すると、騎士が持つ剣が発光した。
斬撃に加えて剣に魔法を宿している――そう確信した矢先、戦士へ向け光が解き放たれた。衝撃波が生まれ戦士が大きく吹き飛ぶ。まさか、と観客が目を見張る中で戦士はどうにか体勢を立て直そうとした。
けれど騎士はなおも仕掛ける……魔力で動く故に体力など関係なく襲い掛かってくる厄介な敵……とはいえ俺は見逃さなかった。意識を少し集中させると、騎士の魔力が先ほどと比べて減っているのがわかる。
観客席でも理解できた以上、戦士もそれはわかったはずだが……間合いを詰める騎士。そこで戦士は剣を構え直し、相手の剣戟を受けた。
そこから戦士は反撃に転じ……純粋な剣術により攻防が始まる。騎士は相当練度が高く、技術戦においても戦士と肩を並べている。観客はさらに沸き立ち、勝負の行方を注視する。
闘技場内にいる人間の視線が例外なく戦士達に集中する中……とうとう騎士の剣によって戦士の攻撃が弾かれた。大剣により騎士は本来受けるのも大変なはずだが、騎士は魔力によって相当膂力が高い。生半可な怪力では太刀打ちできないだろう。
そして騎士の剣が戦士へ叩き込まれ――彼は倒れ伏した。とはいえ傷はない。おそらく魔力だけを斬る剣……体の内にある魔力を削れば疲労で動けなくなる。それを狙ったものだ。
結果としては使い魔の勝利。けれど歓声が上がる……予選ですら見事な戦いが見られる。それを確信したからだと俺は悟った。




