彼の噂
「そんなに面倒な話じゃない。僕は戦士団に誘っても良さそうな人物を探している。ディアスは顔も広いし、知り合いなら腕前なんかもある程度わかるだろう? もし良さそうな人がいたら、是非とも紹介して欲しい」
そんなエリオットの提案に対し俺は、
「絶対に紹介できるとは限らないぞ」
「ああ、そこは大丈夫。団員候補を確保する手段を増やすという意味合いだから、ダメで元々という面もある……で、その代わりといってはなんだけど、情報を提供しよう」
「情報?」
「アルザが大会に出場するため、参加者の情報を集めているんだろう? 僕も独自に情報収集をしているから、情報を提供しようという提案だ」
なるほどな……言動について引っ掛かるところはあるが、彼の仕事ぶりは確かだ。保有する参加者の情報、というのもかなり精度の高いものだろう。ヴィルマーのような特異的な存在は例外にしろ、調査についてはかなり進めていることだろうし。
ただ、よさそうな人間を紹介するというのは、下手するとエリオットに情報を売っているような見方もできるからなあ……例えば彼から勧誘を受けた人がしつこいと感じ、なぜこうなったのかを調べたら俺が言ったから、となったらトラブルになる可能性もゼロではない。
うーん、どうしようか……俺が悩んでいるとエリオットは、
「決めあぐねている感じだね」
「うんまあ……」
「なら、構わないよ。邪魔して悪いね」
エリオットはあっさりと引き下がりギルドから出て行った。
……もしかして、こんな風に色々な人へ声を掛けているのだろうか。
「なんだかトラブルの元になりそうな気がするな……」
正直、悪気があるわけじゃないのはなんとなく理解できるけど……いや、相手がいなくなったのだから気にしないでおこう。
そう思い直して俺は情報収集を再開する……昼くらいに一度宿へ戻るか、と思いつつ俺は作業に没頭していった。
一通り情報を得た後、時間は昼前くらいだったのでとりあえず戻るか……と冒険者ギルドを出ようとした時のことだった。
「おーい、ディアス」
声を掛けてくる同業者が一人。えっと、名前は……、
「ロザロ、だったっけ?」
「お、名前を憶えてくれているのか。それは光栄だな」
無精ヒゲを生やした黒髪の戦士……俺と年齢は同じくらいで、今だ現役の人物だ。
「ここには大会の出場を?」
「いや、さすがに俺程度の技量で出ても予選落ちだからな。知り合いが出るってことで観戦しに来た」
ここで彼は笑う。
「結構名うての戦士が出場するみたいで今からワクワクしているところだ」
「……確かに、傍から見る分には結構楽しめそうではあるが」
調べている俺からしたら大変だけど……そんな呟きは胸にしまっておくことにする。
「ところでなんだが、話し掛けたのは一応理由があってだな」
「どうした?」
「さっきエリオットと話をしていなかったか?」
「……彼がどうかしたのか?」
「いやあ、どういう縁で話をしたのか気になっただけだ」
なんだか引っ掛かる物言いだな。
「エリオットは言動から敵を作りやすいから、その関連かな?」
「遠慮した言い回しだな……別にいいんだぜ? 物言いがムカつくから敵が多いと言ってしまっても」
なんというか、彼はエリオットに良い印象がないみたいだな。
「……元々戦士団同士で交流があって、魔王との戦いにも参加していたから知り合いではあった。で、俺が町を歩いていた時に声を掛けられた」
「災難だったな」
苦笑したくなるくらいの即答だった。一体何をされたんだと冗談混じりに問い掛けようとした時……ロザロの表情が幾分硬いことに気付く。
「もしかして、込み入った話になるのか?」
「ああ。ただ、あくまで俺も伝聞ってことで確証のある情報じゃないぞ」
……ふむ、俺はここで考える。エリオットに関する情報は現時点でほとんどない。それは実力の割に話題に上らないからという点もあるし、彼の技量については魔王との戦いで見ていたりするので、調べる必要性がないというのもあった。
ただ、ロザロの表情を見る限り……なんだか嫌な予感がするな。
「噂レベルの話ではあるんだな?」
「ああ、そうだ」
「信じるか信じないかは俺が判断するさ……彼も大会に出場するわけで、調べておいて損はないだろ」
「わかった……場所を変えるか?」
「長い話になるならそうしようか。昼食でも一緒にどうだ?」
「ああ、そうするか……ただ、それなりに重い話だからメシが不味くならないかだけ不安だな」
「……そんなに、か?」
ただならぬ気配を感じた俺はロザロへ問い掛ける。そこで相手は、
「簡潔に言うとだな……エリオットはヤバい奴らとつるんでいる疑惑がある。あ、といっても魔族絡みというわけじゃない。ただ……源流を探ると、もしかしてどこかに魔族がいるのかもしれないが――」




