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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第六章

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最後の機会

「やあ」


 アルザはヴィルマーへ向け軽い挨拶をしたのだが……彼がアルザを認めた瞬間、まるで時が止まったかのように硬直した。

 その反応を見て俺だけでなくミリアやカトレアでさえも彼へ注目。そうした中で俺は、


「アルザ……知り合いなのか?」

「知り合いというか」


 アルザはどこまでもヴィルマーへ目を向けながら、


「同郷」

「……は!?」

「私が活動し始めた時、この人は故郷にはいなかったけどね」

「いやあ、いつかこうなるとは思っていたんだがなあ」


 頭をかきつつ困惑した表情のヴィルマー。この態度からすると、


「アルザと同郷ってことは、当然村が魔物に襲われて崩壊、村民が離散したのは知っているよな?」

「そうだな……俺はそれを聞いて、何もしなかった。というより、自分のことを優先して放置したというのが正解だな」

「……それについてアルザは何かしら思うことがあると?」


 故郷を再興しようと頑張っている以上、ヴィルマーの態度について考えることが――


「いや何も」


 しかしアルザの返答は予想外のものだった。


「冒険者になって故郷なんて知るか、みたいな人は多くいるし」

「そうか……なのにヴィルマーへのその態度は何だ?」

「もしかして後ろめたいとか考えているかなー、とか思ってちょっとそれっぽい態度をしてみた」


 つまり、アルザによる悪戯らしい。それを聞いてヴィルマーはどこかほっとした表情となる。


「出会い頭に剣を抜かれないだけマシと思うことにしよう」

「……まさかこんなところに因縁があったとは」


 と、会話をする間にも冒険者が何だ何だと注目し始める。これ以上ここで会話をしていると面倒事を引き寄せかねないので、


「ヴィルマー、ここで会ったのも何かの縁だ。場所を変えて食事でもするか?」

「ああ、そうしようか……カトレアさん、そちらは?」

「なら店を紹介しようか。ああ、心配いらない。個室のある店にするが、冒険者でも気軽に入れるような場所さ――」






 というわけで、俺とミリアにアルザ、そしてカトレアと弟子のボニー。そして歴戦の戦士でアルザと同郷のヴィルマーと食事を……多いしメンバーがカオスだな。ともかく、この面子で店に入って食事をすることに。

 個室かつ円卓で囲むように着席し、カトレアが主導で料理を頼む。待っている間にアルザが今回大会に参加した理由をヴィルマーへ語る。すると、


「俺も何かやった方がいいのだろうか……」

「アルザがしたいようにしているだけで、別にいいんじゃないか? 彼女も気にしている様子はないし」


 俺はフォローを入れつつアルザへ視線を向ける。


「そもそも復興資金が集まって本当に帰ってくるのかもわからない……ただアルザが故郷にいたから誘っただけだ。それをヴィルマーに手伝えという気もないだろ」

「そうそう」

「……やれやれ。とはいえ、同郷の人間が頑張ろうとしているんだ。何かしないわけにはいかないだろうな」

「なら、アルザと同郷であると吹聴して回ればいいさ」


 と、カトレアがヴィルマーへ向け口を開いた。


「そしてアルザは村を復興させるために動いていることまで語れば、話題になるだろうさ」

「そうですね……なら、そうしましょう」

「なんだかこの調子だと、別に優勝せずとも復興の道が開けそうだな」


 俺がそうコメントするとアルザは「かもね」と同意しつつ、


「でも戦うのであれば容赦はしない」

「それはこちらも同じだ……腕に自信はあるようだな」

「正直、勝てるかどうかわからないけど」


 直接顔を合わせ、その実力のほどを認識した様子……正直、俺の目から見てもヴィルマーの方が実力としては上のように思える。


「なあヴィルマー、大会に出場した理由は?」

「俺の目的は強者と戦うことだ。であればこうした大会に出場するのは当然……とはいえ、今まで出たことはなかったし、人によってはなぜ今、と疑問を抱く者もいるだろう」

「何か心境の変化が?」

「正直、今までは自己満足の範疇であり、自分が納得すればそれで良かった。しかし最近になって思うようになった……本当にそれで良いのかと」

「他者にも認められないと思うようになった?」

「というより、俺自身の力を外部に示す最後の機会だと思ったんだ」


 最後の――どういうことかと注目していると、ヴィルマーはなおも続けた。


「肉体的なピークは過ぎ去ったが、身体能力そのものはどうにか維持できている。一方で技量面はまだ鍛えられるが、いずれ肉体的な問題で衰えていくだろう。年齢的に考えれば、今が剣術においてピークだ」

「なるほど、そのピークである実力を、大会というもので刻みたいということか」

「そうだ。あと数年もすれば、間違いなく自分は今よりも弱くなっている。それを考えれば、今回が最後の機会だろう?」


 実力を示す、か……富や名声ではなく、自分の力を確かめたいがために出場するとは、とことんストイックである。

 ただ、歴戦の勇士である彼の口から出る理由としては、なんだか不思議と正当なものに思える……同じ事を思ったのか、ミリアやボニーなんかは納得の表情を浮かべていた。



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