森の中の戦い
翌日、俺達は騎士団に帯同する形で出発した。既に雇われた傭兵などに俺達のことが周知されたらしく、こちらに視線を送っては何やら話す様子が見られた。
「大丈夫かしら……」
注目を集めることで不安を抱いたのはミリア。魔族であることが露見すれば問題になるのでは――という考えが浮かんだみたいだけど、
「俺の魔法はちゃんと機能している。大丈夫さ」
「うん、問題ないよ」
俺とアルザの言葉を受け、彼女はそれで表情を戻した。
道中で雑談をしながら俺達は進み続け……やがて広大な森が前方に出現。それと共に森から魔力――いや、これは、
「瘴気だな」
魔物が発する魔力は、時に大気を汚染し生物に有害な影響を与える……それが瘴気であり、森の中によどんだ空気を作り出している。体内にある魔力を操り体を保護できるようになれば問題なくなるけど、普通の人が入ればかなりまずいことになる。早急に対処しなければならないのは無理もない。
「隊長さん」
俺はここで先導する騎士へ告げると、相手は小さく頷いた。
そこで俺は、魔法を使う……魔力を光の粒子と化して、対象を強化する魔法。討伐隊は等しく能力を強化されて――周囲から高揚感を抱いたか声が聞こえた。
「相変わらずだね」
と、アルザが俺へ言及。
「敵からしたら厄介だよね。何せ一気に隊全体が強くなるんだから」
「過信はしないで欲しいけどな」
「先へ進め!」
騎士が号令を発し先導する形で森の中へ入ろうとするが……それよりも前に森から魔物が多数出現した。即座に応戦しようと構えたが、それよりも先に騎士の号令が掛かった。
「討伐開始!」
周囲にいた兵士や冒険者達が動き始める。隊長を含めた主力部隊の狙いはあくまで魔物の主であり、他の魔物は周囲に任せるというわけか。
俺も構えを解いて騎士の言葉に従う。そして森の中へ侵入すると、瘴気が一層濃くなった。
「結構な強さの魔物みたいだな」
瘴気の濃度から推察して俺は呟く。ミリアは同意するように頷き、アルザもまた目を細め瘴気が発される方角を見据えていたが、
「でも、私達にとっては……かな?」
「アルザ、油断はしないでくれよ」
「わかってる」
「あと、援護はやるからアルザは思いっきりやれ。こちらのことは気にするな」
「お、いいの?」
「これでも魔王との戦いに生き残った魔術師だからな。騎士を含め、全員守り通してみせるさ」
宣言にアルザは笑みを浮かべ――直後、魔物が接近してきた。姿は漆黒の猿という形容が似合うのだが、体は人間の半分ほどと大きい。周囲の気配を探れば、同型の魔物が森の中に多数いるようで、俺達は戦うことを余儀なくされる。
とはいえ、その能力は俺達からすれば……先陣を切ったのはアルザ。腰の剣を引き抜くと、恐るべき速度で魔物へ間合いを詰め、一閃した。
魔物はそれを防ごうとしたみたいだが、剣は魔物の体を容易く両断する――途端、周囲の騎士からどよめきが上がった。
「はっ!」
さらに繰り出される剣戟で、魔物は確実に葬られていく――彼女の能力は退魔。魔物や魔族に対し非常に有効な力を引き出すことが可能であり、人間側にとっては切り札とも呼べる存在だ。
もし魔王との戦いにはせ参じていたら活躍していたに違いない……魔王に通用していたかどうかは不明だけど、大きな助けになっていたのは間違いない。
「さて、俺も頑張らないと」
俺はここで杖をかざして魔法を使用する。その対象は周囲の騎士達。森へ入る前に使用した魔法とは少し違う。具体的に言えば効果を発揮したのは騎士自身ではなく、彼らが握る武器だ。
刹那、彼らが持つ剣や槍が一瞬だけ輝いた。それで効果を発揮し、騎士が魔物達へ武器を突き立てると……驚くほどあっさり魔物の体を傷つける。
「この魔法は?」
ミリアが尋ねてくる。そこで俺は、
「瘴気を発するくらいの魔物だから、強い……よって、アルザが使うような退魔の効果を付与した。とはいえ、強化魔法と違い魔力を付与する形式だから、数度攻撃したら効果が消え去る程度のものだ」
しかもこれ、結構魔力を消費する。強化魔法の方は魔法を受けた側の人間が持つ魔力を活性化させるため、少しの魔力でも効果が持続するのだが、何かに付与する魔法は武器を持つ人間の魔力を利用できないので、使い捨てのような形になる。
だから隊全体に付与するのは俺の魔力量的に厳しく、今回は最前線に立つ騎士達だけに限定した。それでも数回効果を発揮する程度だが……彼らにとってはそれで十分だったらしく、魔物を大いに蹴散らした。
「魔物の数が想定よりも多いな……」
そこで隊長が呟くのを耳にした。事前調査と比べ厄介な事態となっているらしい。
ここで先へ進むか一度退くか……とはいえ、士気が高くアルザが魔物を屠っている状況であるため、答えは決まっていた。
「――先へ!」
そして隊長は叫ぶ。次の瞬間、騎士達は一斉に応じて魔物の主がいる場所へと一気に進み始めた。




