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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第六章

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とある大会で

 アルザが参加した大会がやっている闘技場に赴くと、それなりの観戦者がいてそれなりに盛況な様子だった。本命である国主催の闘技大会が始まる前の繋ぎ……という感じだろうな。一方で戦士達の方は予選や本選に出るための予行演習という感じだろう。


 俺が訪れた時、偶然アルザの試合が始まろうとしていた。観客席は自由らしく、適当な場所に座るとアルザは気付いたか一瞬こちらを見た。


「――始め!」


 そして試合開始の声が飛んだ。アルザはすぐさま視線を対戦相手へと向け――その敵はいかつい大剣を持ったムキムキの戦士。相手がアルザのことを知っているのかわからないが……いや、真っ直ぐ突撃するところを見ると、知らないのだろう。


「おおおっ!」


 戦士からすれば場違いな相手だと思うところかもしれないが、全力は出すらしい。刀身に秘められた魔力はかなりのもので、まともに食らえば体が真っ二つになるのでは、と思ってしまうほどだった。

 けれどアルザは冷静に対応した。相手が放った大剣による横薙ぎを、軌道を見極めながら剣をかざして受け、流した。相手からすれば決まったと思ったら見事すり抜けられたと感じられたことだろう。


「ぬうっ!?」


 声を発しながらさらなる剣戟を叩き込もうかと剣を引き戻そうとする。その動きは隙はほとんどなく、対戦相手が普通の戦士ならば距離を詰める前に戦士の大剣が放たれる方が先だろう。

 けれど生憎、アルザは普通じゃない――隙と呼べるか微妙な間ではあったが、彼女は相手の動きを見極めて接近。剣を、相手の胸部へ叩き込んだ。


「がっ――」


 しかもそれは細腕のアルザには似つかわしくないであろう、とことん重い一撃。結果、大剣を所持し明らかに相応な重さのある戦士を、吹き飛ばした。

 おお、と歓声のような声が観客席から漏れる。客からすれば、強そうな戦士をはね除ける可憐な女剣士……みたいに見えるのかもしれない。


 とはいえ、戦士は倒れ伏すような真似はしなかった。すぐさま体勢を立て直し、再び攻撃を――と思ったかもしれないが、戦士は瞠目したことだろう。

 なぜなら真正面にアルザの姿がいなくなっているから。


「どこに――」


 戦士が呟く間に横手へ回ったアルザの剣が戦士の脇腹を捉えた。峰打ちではあるが、まともに食らったことで戦士は倒れ伏す。

 ガランガランと大剣も取り落とし、アルザはさらに距離を詰め起き上がろうとする戦士の首筋に刃を突きつけた。


 そこで試合終了の声が飛ぶ。結果は圧勝……対戦相手がどの程度の能力かはわからないが、


「……アルザは、大丈夫そうだな」


 そんな感想を、俺は抱いたのだった。






 そしてアルザは順調に勝ち進み、夕刻前の決勝戦で見事勝利を飾って小さな大会ではあるが優勝した。

 また観戦する間に、様子を見に来たらしい戦士がアルザのことを見て驚愕していた。これを契機にアルザの存在は噂に上ることになるだろう。


 簡単な表彰式が終わり、参加者が退場していく中で俺は立ち上がる。とりあえずアルザを出迎えに行くとしよう。


 闘技場を出て少しすると、大会参加者がゾロゾロと闘技場から出てくる光景が――その表情は、優勝できなくて悔しさを滲ませるものや、何かしら実験でもして成果があったか、満足げな顔をしている者もいた。あるいは、他の戦士と話しをして、情報交換でもしているのかと思われる人だっている……俺は彼らに視線を送りつつアルザが出てくるのを待った。他の参加者よりも明らかに遅い……今回の大会で、運営とかに目を付けられたとか? いや、さすがにそんなことはないか。


 参加者の列が途切れた時、ようやくアルザが闘技場から出てきた。すぐさま俺を見つけて近寄ってくると、


「優勝した」

「見てたからわかるよ……遅かったけど、何かあったか?」

「優勝賞金の受け取りとかをしていた」


 ああなるほど。


「それでアルザ、大会に出てみて感想は?」

「確かに、空気感が違った。なんとなく動きがいつもよりも鈍いように思えたね」

「それが独特の緊張感ってやつだな」

「満員の観客に見られながら戦うのは、また違うんだろうね」

「だな。俺は経験ないけど……それを力に変えられる人間が、大舞台で優勝できる人間、ってことじゃないか?」


 俺の言葉にアルザは頷く。自分がどういう人間なのかはどうか、彼女自身はまだわかっていないが……、


「観客ありの状況で、戦ってみてどうだった?」


 俺はさらに問い掛ける。


「普段魔族や魔物と戦う人間の中には、単なる見世物だと憤慨する人だっているんだが」

「不快感はなかったよ。むしろ、自分の力を示すのに絶好の場所だと思う」

「……そういう返答ができるなら、これ以上の助言はいらないだろうな」


 俺はそれ以上言葉を投げかけることはせず、最後にアルザへ、


「その調子なら大丈夫だろ。大舞台での優勝、期待してもいいか?」

「……うん」


 その返事はおとなしいものだったが、少なからず自信を覗かせるものだった。


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