歴戦の勇士
「少なくとも現状では、戦士団に所属する気はないと」
そのエリオットの言葉に俺は頷き、
「ああ。しがらみ云々は当面勘弁願いたい。俺としては自由気ままな旅を続けたいところだな」
「それから先はどうするつもりだい?」
「……期限があるわけじゃない。ゆっくり考えるさ」
俺の言葉にエリオットは「そうか」と応じつつ、俺へ視線を向けてくる。
どうにか説得したいという思惑が透けて見えるような態度だ。魔王との戦いに加わった俺をどうにか仲間にできないかと、考えている。
ただ、ここで無理に話をするのも逆効果だと悟ったか……エリオットは、
「そういうことなら仕方がないな」
あっさりと引き下がった……が、この調子だと今後もラダルクにいる限りは突っかかってくる可能性が高そうだ。
宿については客人を通すなと事前に宿の人に言っておけば問題はないだろうけど……どちらにせよ、大会が始まれば俺のことを注意するような余裕はなくなる、かな?
「……闘技大会、優勝を目指しているのは当然のこととして」
俺はここで話を変える……闘技大会について情報収集くらいはしておくべきだろう。
「マークしている人間とかはいるのか?」
「ああ、それはもちろん。三年に一度という大イベントということで、今大会では名うての剣士が多数出場している。その中で特筆すべきは一人……ヴィルマーだな」
「俺も聞いたことがあるな。彼が出場するのか」
ヴィルマー……本名ヴィルマー=ヘリンウス。聖王国だけでなく、世界各地を回って活動する傭兵である。
年齢は確か……三十手前くらいだったかな? 歴戦の勇士、ということで同業者から一目置かれる存在であり、戦歴も凄まじい。元々、剣術を極めるという名目で戦士と勝負にあけくれている人物だが、その技量を見込まれ魔族や魔物との戦いで何度か参戦し、俺も顔を合わせたことがある。
その剣は、技量に加えて経験に裏打ちされたもので、一緒に戦っていた団員なんかは「剣を当てられる気がしない」というくらいに凄まじい技量らしい。対人、という観点において間違いなく聖王国最強クラスであり、純粋な剣術勝負では英傑のクラウスも負けるかもしれない――などと語ったことがある。
「ちなみにだが」
と、エリオットは少し声のトーンを落としつつ語る。
「賭けの倍率では圧倒的にヴィルマーが一位……大本命というわけだ」
「そりゃそうだろうな……で、エリオットは勝つ自信があるのか?」
「剣を直接見たことがないからわからないな」
即答だった。
「けれど、相手は評判通りの実力を持っているのはわかっている」
「そうだな。一度見たことがあるけど魔族を圧倒してた」
「同じ戦場に立ったことが?」
「数回、な。でも剣術がどういったものか教えてくれとか言われても無理だぞ」
「そこは承知しているさ……ちなみに、魔族相手でも剣で戦っていたのか?」
「そうだな。魔法は使えないんじゃないか」
――その言葉でやはりか、みたいな納得の表情を浮かべるエリオット。あれだな、対策としてはヴィルマーが持っていない魔法を使えばどうにかなりそう、みたいに解釈したのか。
ちなみにヴィルマーは魔族が放った漆黒の雷を剣で叩き切ったことがある……というか間近で見た。あれを見たら魔法も通用しないだろうなー、と確信できる。
そういうのを教えた方がいいのだろうか……と思ったが、余計な話をすると根掘り葉掘り聞いてきて面倒そうだからやめた。
ただヴィルマーのことはアルザに教えた方がよさそうだな……内心で結論を出した時、俺達は食事を終えた。
「エリオット、そういえば仲間はいないのか?」
「今は一人だね」
「つまり、仲間探しはこれからだと」
「最初の勧誘をディアスにやってみたわけだが、見事に失敗した」
「……エリオットは元々仲間内で名前が挙げられている。大会に出場しなくても人は集まりそうなものだけど」
「そうやって有象無象が集まっても意味はない」
……うーん、なんというか言葉の端々から感じられる攻撃的な発言により、味方をなくしているような気がしないでもない。
「大会出場は勧誘する戦士の品定めでもある。本戦期間中、観戦して勧誘するさ」
「勧誘に注力して足下すくわれないようにしなよ」
「ああ、わかってる。ご忠告ありがとう……あ、代金は僕が払うよ」
「いや、いい。同業者に借りを作ると面倒事になりそうだからな」
エリオットは笑う……戦士団所属時、こういう軽い貸し借りでしがらみとはいかないにしても、面倒なものに付き合われたとかそういう経験があるらしい……俺もあるから発言したんだけど。
そういうわけで、俺達は割り勘という形で代金を支払い、店の外へ。そしてエリオットは「じゃあ」と足早に去っていった。
「……今後、見かけたら話し掛けられそうだな」
それはそれで面倒……ミリアのことは問題ないにしても、アルザと一緒に行動しているところを見られると、勧誘に熱が入るかもしれない。
「ま、考えるのは後にしよう。とりあえず、アルザが参加している大会の観戦に行こう――」




