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魔法の師

 翌日、俺はミリアを伴って宿を出た。アルザの方は遅れて行動するとのことだったので、とりあえず二人である。


「ディアスはその魔法の師匠とはどのくらい交流があるの?」


 道中でミリアが疑問を呈した。そういえば言っていなかったな。


「俺の師匠と繋がりのある人物で、少し世話になったことがあるくらいだ」

「世話?」

「戦士団に所属して活動している際に、仕事上どうしても知識とか情報が必要だった時、頼ったのが今回の人」


 言いながら路地を進んでいく……と、俺は目当ての場所を見つけた。


「ふむ、人の声はしているな」


 呟きながらそこへ辿り着くと……道場のような大きい建物が一つ。剣術道場にも見えるが、中は色々な魔法を検証できるようになっている。


「門下生らしき人が朝の稽古をしているみたいだけど……」


 俺は入口から入ってみる。扉の先には小さな受付が一つ。


「どうも」


 そこにいる女性へと話し掛ける。ボサボサの黒い髪で目元すら隠れているのだが……相手は俺を一瞥し、


「ディアスさんじゃないですか。お久しぶりです」

「その声、ボニーか……前来た時は髪もちゃんとしていたんだが、何があった?」

「忙しくて髪を切る暇もないというだけです」

「受付なんだからもうちょっと身なりを整えた方がいいんじゃないかと思うんだが」

「私のことを見て回れ右するような輩は来ませんよ」


 まあそれはそうなんだけど……。


「えっと、カトレアさんは?」

「奥にいますよ……その女性を鍛えるとか、そういうことですか?」


 ミリアを見てボニーが言う。


「ああ、そうだ」

「剣の腕はそこそこといった感じですか」

「わかるの?」


 何もしていないのに、ということでミリアが驚きつつ尋ねると、


「まとっている魔力がずいぶんと実直かつ整然としていますからね」

「受付他、雑用をしているボニーだけど、カトレアさんの一番弟子だからな。このくらいはわかる」

「……ふむ、魔力に揺らぎがあるようですが、何か訳ありですか?」

「そこまでわかるのか?」

「というより、ここには魔力を偽装する他種族の方もいますからねえ。経験上わかるだけですよ」


 さすがだな……もうこの時点でミリアは固まっている。


「……事情説明はカトレアさんの方にするべきかな」

「それもそうですね。案内します」

「門下生がいるけど、会えるのか?」

「現在、師匠は門下生をとっていません。今日いるのは元弟子の皆さんで、闘技大会に備えて稽古しているだけです」

「……今はいないって、何か理由が?」

「色々研究にはまっていまして」


 理由はそれだけらしい……研究がしたいから門下生がゼロ、というのはなんというかずいぶんと強引である。


「そんな状況だと訪ねたが駄目そうか?」

「知り合いの頼みなら大丈夫じゃないですか」


 話しながら奥へと向かう。そこで稽古場を横切ったのだが……結構な数の男女が思い思いの鍛錬をしていた。ある人は魔力を練り上げ精神統一のため瞑想をしている。またある人は訓練用のダミーを向かい合って魔法の検証をしていた。


 元弟子ということで、思い入れのある稽古場でベストコンディションにもっていくべく鍛錬に励んでいるというわけだ……やがて角を曲がり、その奥にある扉の前に到達。


「師匠、ディアスさんがお越しになられました」

「入りな」


 端的な言葉。ボニーはそれで扉を開けて俺とミリアを中へ促した。

 俺が先に部屋へ入る。南向きの部屋なのか、窓から太陽光が差し込んでずいぶんと明るい部屋だった。そこはまるで冒険者ギルド本部のエーナがいるような、執務机のある部屋であり、


「どういう風の吹き回しだい? ディアス」


 そう問い掛けてきた女性……老齢に入る、白髪の女性がそこにはいた。髪は綺麗にまとめ上げられ、右目に片眼鏡を掛け、なおかつ漆黒の衣服を身にまとった……なんというか、そこにいるだけで空気が重くなるような、凄まじい存在感の女性である。


「まさか闘技大会に参加するわけでもないだろうに」


 そして挨拶もなしに俺へ質問をしてくる……社交辞令みたいなものが心底嫌いであるカトレアの、流儀みたいなものである。


「少々お願いがありまして」

「横にいる女性かい?」


 カトレアの視線がミリアを射抜く。見据えられた彼女はなんだか萎縮した態度だが、


「ああ、すまないね。一応魔力とかを確認してとかなきゃ検証もできないからね」


 そうカトレアは言うと、小さく笑った。


「先に言っておくが、あたしゃ女性には優しいよ。可愛い子は皆愛でたくなるもんさ。何か失敗しても千回くらいは許すから、心配しなくてもいいさ」

「相変わらずですね、まったく」


 苦笑する俺をよそにカトレアはミリアをじっと見据え――やがて、


「ずいぶんと面白いやり方で魔族なのを誤魔化しているね」


 あっさりと言い当てられてミリアは絶句する。


「まあいいさ。ディアス、どういう経緯で知り合ったのかを含め、話してもらえると助かるんだが」

「わかりました……が、長い話になりますよ?」

「構わんさ。椅子なら部屋の隅に置いてある。まずはゆっくり話そうじゃないか――」


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