大会登録
クラウスと話を終えると俺達は紹介してもらった宿へ入る。結構高いグレードで、全員が割と広い個室を用意されていた。
ただミリアとアルザは二人部屋を選んだ……一緒に旅をしていてなんだかんだで仲良くなったらしい。一方で俺は個室に入って一息つく。
「何事もなければいいけどな……」
と、なんとなく呟いてみる。クラウスがいたという事実は驚きだが……彼は何も語らなかったが、もしかして騒動が起きるような情報が入っているのだろうか?
「考えすぎかもしれないけど……まあ何かあれば手伝うことにしよう」
ただ、さすがにアルザは大会に集中して欲しいし、ミリアも修行があるから今回は俺が単独で動くことになりそうかな……? そんな風に思っていた時、ノックの音が。
「ディアス、話が」
ミリアの声だったので扉を開ける。廊下には彼女と横にはアルザが。
というわけで三人で話をする。テーブルに備えられた椅子があり、隅っこの方に予備の椅子があったのでそれを引っ張り出して着席する。
「今後の方針だけど……」
「ああ、そこについてはもし、クラウスが助けを要請したら俺が行くよ、二人は自分のことを優先。特にアルザは大会に集中」
「それでいいの?」
騒動が起きたら――というわけだが、俺は頷いた。
「アルザって、こういう大会に出場したことは?」
「ない」
「そうか。俺もこれほど大規模なものは参加したことないけど、修行のために大会に出たことはある……こういう場は空気が独特で、それこそ大会に集中しないとあっさり負けたりする。アルザには全力で戦ってもらいたいし、優勝目指して頑張って欲しい」
「……わかった」
「ミリアは明日にでも候補の師匠のところに案内するよ。ただ、問題としてはこれだけ人が多いわけだし、教えを受けられる状況にあるのかどうか」
「定員オーバーになっている可能性があると」
「その時は改めて考えるということで……よし、アルザ。まずは大会の登録申請からだ」
「よしきた」
――俺達は部屋を出る。ミリアも興味があるのかついてくる。
宿から運営本部のある場所はそう遠くない……町の中央にある一番大きい円形闘技場が眺められる部屋だし、何事もなければ大会に意識を集中させることは難しくないだろう。
俺達はその闘技場の入口へ。そこで参加登録を行っており、受付の女性へ話し掛けた。
「ようこそ、大会参加者ですか? 出場資格としては、ギルド証などの身分が明確にわかるものが必要です」
――アルザはギルド証を提示して、登録を行う。必要事項などを記載する書類を渡され、俺は逐一彼女へ助言しつつ書類を作成。
「登録されました。ご健闘をお祈りしております。予選は五日後に始まりますので、それまで英気を養っておいてください」
受付の女性はそうにこやかに告げ、登録そのものは完了……さて、
「アルザ、剣の訓練とかしないといけないだろ? クラウスにかけあってみて、剣が振れそうな場所を探してみようか」
「そこは私がやるよ。私が自分の意思で参加したわけだし」
お、なんだかやる気だな。そういうことなら俺も引き下がることにする。
「アルザは名は同業者に知られているけど、大会出場なんかの実績はないから予選からスタートだ。会場の空気感、観戦されているという状況で緊張もするだろうし……まずは慣れていくところから、だな」
「予選が始まる前に小さな闘技大会とかないかな?」
「あー、それでちょっと検証したいってことか。うーん、予選も始まってないけど、国主催の闘技大会……その開催期間ではあるし、やっているのかな?」
疑問ではあったのだが、俺は少し考え、
「なら、そうだな……闘技大会に関する案内所とかあったはずだ。そこを覗いてみて調べようか」
登録をしたその足で俺達はさらに移動を行う……で、案内所を発見して色々調べてみると、
「へえ、開催している大会があるな……ただまあ、中央の大きな闘技場が使えないし、小規模なものばかりだけど」
「でもメインの大会が始まる前に観戦しようというお客さんもいるよね?」
「これだけ人が集まっている以上は、いるだろうな……そうだな、いくつかピックアップしてみて、参加してみるか?」
「うん」
いつになく、やる気に満ちているアルザ。もしかすると闘技の町……その空気に彼女は当てられたのかもしれない。
そこから俺とアルザ、さらにミリアの三人で色々と吟味しつつ、参加しようという候補のものをいくつかピックアップした。ギルド証を提示すれば参加そのものはできるので、後はアルザがどう判断するか。
「ただアルザ、怪我だけはしないように。まあここには腕のいい治療術士とかいるし、多少の傷ならなんとかなるけど」
「うん、注意するよ」
アルザは俺の助言を受け入れつつ頷いた。そして俺は、話を締めるべく口を開く。
「明日から本格的に行動しよう。俺とミリアは魔法の師匠の所へ。アルザは大会出場。朝の時点でどれに出場するか言ってくれ。後で観戦しにいくよ――」