人同士の戦い
ラダルクまでの道のりについては、街道がきちんと整備されているし要所となるような場所はない……のだが、目的地へ近づくにつれて声を掛けられることが多くなる。
「ディアスじゃないか、戦士団を追い出されたって話だが、何をしているんだ?」
そんな口上で俺に話し掛けてくる人が多数。戦士団を脱退した情報は相当知れ渡っているらしく、俺の顔を知る人間はほぼ例外なく話をしにきた。
で、彼らは一様に戦士団を「追い出された」という決まり文句だった。誰一人として脱退したと言わない……改めて確認できたが、俺の脱退は世間的には追放ということになっているらしい。
とりあえず「追放じゃなくて自分の判断で脱けた」ということは伝えているのだが……相手は「そう言うしかないよな。わかるよ」みたいな反応なので困ったものである。長い間戦士団に所属していたのが原因なのか、俺が泣く泣く脱けたみたいな感じで考えてしまうらしいのだが……あんまりムキになって否定するのもそれはそれで怪しまれるということで、上手いフォローができないというのが悲しいところだ。
セリーナとは決闘により因縁というものはまあ消えたと言っていいのだが……俺のことで気を揉んだら不機嫌にならないだろうか。まあそうだとしても俺はどうしようもないわけだが。
「戦士が多くなってくると」
そうして色々と頭を悩ませている間に、ミリアが歩きながら言った。
「闘技の町、というのが近くなってきたのだとわかるわね」
「……今は町の中がお祭り騒ぎだろうからな」
「聖王国として、一大イベントなのかしら?」
「そうだな、毎年王都で行われる収穫祭とか、聖王国建国のお祭りとか、人々が集まる行事はたくさんあるけど……闘技大会は三年に一度で、久しぶりだから期待も高まるんだろう」
「なるほどね……ねえディアス。一つ疑問なのだけれど、先日英傑達と話し合いをした際に闘技大会の話は出なかったわよね?」
「そうだな」
「誰も出場しないってこと?」
「クラウスは既に優勝しているから出ない……まあ、優勝後も出るケースはあるみたいだけど、忙しいし無理だろ。エーナについてもクラウスと同様に忙しいから出ない。ヘレンもギリュア大臣との戦いがあるわけだし、出ない……そもそも王族が出るなんてケースは今までなかった。国主催の大会で大けがでもしてしまったら一大事だからな」
「それもそうね」
「そしてセリーナも今後のことを考えれば出る理由がない……そもそも、闘技大会はどちらかというと戦士のものだ。魔術師で後衛を任されることが多いセリーナとしては場違いだろう」
「彼女なら最前線でも戦えそうだけど……」
「確かにそうだが、英傑にまで上り詰めた以上は宮廷入りする名声としては十分だ、と考えている面もあるだろうな。それに、下手に出場して一回戦負けなんてしたら、逆に英傑という称号に疑義をもたれるかもしれないだろ」
「彼女の戦いぶりを見たらあり得ないとは思うけれど……僅かな可能性があるなら、出場する理由はないわね」
ミリアが納得の声を上げる……で、ここでアルザが会話に入る。
「ねえディアス。それじゃあシュウラとニックは?」
「シュウラも後衛向きだし出る理由がない。今の英傑だとニックが一番出る可能性が高いんだが……彼はダンジョン潜りがメインだし、人同士の戦いというのは興味がないと以前言っていた。出ないだろうな」
「人同士……」
アルザはそう呟くと、腕組みをして考え込む。
「そこが、特に大きい理由?」
「そうだ。元英傑のアルザに説明するのもなんだか奇妙だけど……『六大英傑』と呼ばれる面々は、全員が魔族や魔物との戦いで功績を上げた人達だ。つまり単純な武勇ではなく、聖王国の人々のために戦い続けたからこそ与えられた称号……だから闘技大会で勝つ、というものとは方向性が違うんだよ」
――実際、闘技大会に出場する顔ぶれというのは、普段魔物や魔族と戦っている人間とは少し違っている。もちろん魔族とも戦い大会にも出場するという人はいるのだが、それよりはどちらかに注力しているケースが多い。
「さて、アルザ。出場するということでここまで来たわけだが、アルザが持っているのは退魔の力だ。旅を通して色々とその特性……新たな一面を見れたが、その能力を利用して勝ち進んでいこうと考えているのか?」
「能力だけで勝てるほど甘くないと思ってるよ」
アルザの目が鋭くなった。いよいよ戦いが始まる……ということで、戦士としての顔を見せている。
「でも、私はこの能力をまだまだ応用できると考えてるし、剣術もまだまだ上を目指せると思ってる」
「……ここで故郷復興までの道のりが大きく進むかもしれないってことで、気合いが入っているな」
「そうだね」
「ミリアの魔法についてもそうだし、今一度戦力強化といきたいところだな。今後、反魔王同盟と戦っていく以上、さらなるレベルアップを行おう――」