魔物の主
魔物討伐の詳細についてだが、どうやら魔物の主とも言える存在が現れたらしく、その影響下でかなりの魔物が集結しているらしかった。
「全部が全部魔王に繋げるのは浅はかかもしれないけど……やっぱり魔王が関係していそうだよな」
「あるいは、魔王以外の誰かがやった策略かもしれないわ」
俺の言及に対し、ミリアは冷静に語り始める。
「魔王が滅んだことに便乗して、とか。あるいは魔王が仕込んでいた策とは別に、誰かがやったとか」
「……やっぱり、魔王が決戦を挑んだ余波というのはそこかしこにありそうだな」
「ええ、そうみたいね」
厄介だなあ……と心の中でぼやく間に俺達三人は討伐隊が待つ拠点へ赴く。そこは聖王国の軍が駐屯地している砦であり、魔物との戦いに備えて準備が進められていた。
「さて、誰に伝えたら通してもらえるのか……」
砦の門付近に到達した際、俺は一つ呟いたのだが……外で待つという必要性はなさそうだった。なぜなら、
「おい、ディアスさんがいるぞ……?」
「横にはアルザがいる。まさか『久遠の英傑』と元六大英傑が肩を並べているのか……?」
俺達のことを知っている人間がそこそこいた。これなら大丈夫かと、門番へ話し掛けるとあっさりと通してくれた。
で、軍側としては既に冒険者ギルドから情報が入っていたようで、俺達三人はあっさりと建物の中へと通された。
「お待ちしていました」
うやうやしく礼を示す騎士。二十代半ばくらいの騎士で、その風格から討伐隊の隊長であることが推測できた。
「今回の戦い、ディアス様とアルザ様が参加されるとのことで、是非ともご協力を願いたいと思い、ここへ招かせて頂きました。つきましては、報酬も――」
報酬増加の説明も受け、俺達は同意。そこから隊長は説明を始めた。
「魔物の主は大樹を依り代として森の中にいます。周辺にいた魔物を片っ端から操り、なおかつ新たに根から魔力を吸収して眷属を生み出しています」
「となると相当大規模な影響があるな……」
「森の入口から少し進んだ場所であるため、交戦はそれほど難しくありません……ただ放置すれば危険な状態になるため、早急に手を打つ必要があり、今回出陣します」
……王都にいる『暁の扉』や『黒の翼』が打って出れば、おそらくあっさりと倒せるくらいの規模ではあるのだと思う。魔王との戦いすら経験した歴戦の猛者か、あるいは王都にいる聖騎士団が来れば……というわけだが、ここは王都からずいぶんと離れているし、駆けつけるまで時間が掛かるだろう。
その待っている時間の間に被害が拡大する可能性がある……よって、今回討伐隊が編成されて戦おうとしている。周辺にいる戦士などを集めているはずで、おそらく現状でも打倒は可能かもしれないが、下手すれば犠牲者が出るだろう。犠牲者を出さず、魔物を倒すために、俺達がここに呼ばれたと考えて良さそうだ。
隊長は魔物の配置などをある程度説明した後、いよいよ作戦を切り出す。
「ディアス様達は我らと共に突き進み、魔物の主を討伐するために手を貸して欲しい」
「敵の能力についてわかっていることは?」
「植物に属する魔物であるため、再生能力が高いことが特徴のようです。実際、遠距離から魔法をいくらか放ち枝を断ち幹を傷つけましたが、すぐに再生しました」
再生能力が高いタイプか。これを破壊する場合は、再生する能力そのものを封じるか、魔物の核と呼べる部分を破壊して完璧に消滅させるかどちらかしかない。
「魔物の核と思しき場所については、おそらく大樹の中心に当たる場所のようですが、そこは特に強い魔力が存在し、遠距離魔法では破壊しきれませんでした」
「つまり、直接攻撃しかないと」
「はい。もし『全能の魔術師』などがいれば、その限りではありませんが……」
「さすがにセリーナほどの火力を出すことは俺も無理だな。よって、接近して攻撃するのが良いだろうが……」
と、ここで俺はアルザへ目を向けた。
「ここに先日仲間に加わった攻撃特化の剣士がいる」
「アルザ様の力を利用し、というわけですね」
「アルザ、俺が援護して魔物を食い止める。その間にアルザが魔物の主を倒す、でいいか?」
「うん、いいよ」
あっさりとした返事。彼女とは戦場で幾度か共に戦った経験もある。連携についてはさほど心配はしていない。
「ミリアは以前言ったように俺の援護を頼むよ」
「わかったわ」
「隊長さん、俺達は騎士を援護しつつ、魔物の主を叩くでいいんだな?」
「はい、よろしくお願いします」
隊長もまた同意。まさかここでアルザの力を確認できる機会に遭遇するとは。
「アルザ、腕は鈍ってないか?」
「大丈夫。むしろ鍛錬は続けていたし、前よりも強いかもよ?」
「なら、その力を存分に発揮してくれ」
アルザは笑みを浮かべ頷く。これから戦場へ赴くというのに、ずいぶんと無邪気な笑顔だった。




