冒険者ギルド
王都から歩き始め、昼頃に到達した宿場町で俺は冒険者ギルドを訪れた。戦士団に所属していた時は団長が仲介して仕事をすることが多かったのだが、金がない時に個人で仕事を請け負ったりもしていた。この宿場町にあるギルドは、そうして幾度か利用したことがあるので俺の顔を知っている人も多い。
中へ入るとずいぶんと静かだった。冒険者の姿はまばらで、依頼が張り出されている掲示板周辺には人の姿もない。
「……魔王の影響がなくなって、仕事が減ったとか?」
あるいは戦勝ムードで仕事をする人が少ないとか……色々推察しつつ掲示板の前へ。一通り物色した後、俺はある依頼に目を留めた。
「へえ、ダンジョン調査か……」
俺はその紙を手に取った。依頼内容は、この宿場町から西に存在する新規ダンジョンの調査をしてくれと。
――ダンジョンというのは、魔王や魔族が作成する軍事拠点である。洞窟などを利用して魔法で人工物を作成。そこに罠などを配置し魔物の生成にあたる。
俺達がいるエルデア聖王国は魔王と戦い続けた歴史的背景から、こうしたダンジョンが数多く存在していた。そこへ騎士や冒険者達がそこへ踏み込み、制圧を行う。時には魔族が持ち込んだ魔法の道具や武具を手に入れる。
そうしたアイテムはそのままでは人間に扱うことはできないのだが、国の研究機関で分析、解明すれば応用して強力な武具が生まれる……そんな中で生まれた武具の一つが俺の杖だ。
魔王が潰えたにしろ魔族の活動がどうなるかわからないため、今後もダンジョンが出現する可能性はあるし、まだ攻略されていない物も存在するだろう。王都に程近い場所にある今回のダンジョンについては、魔王が決戦前に気を散らすために仕込んだものだろうと推察される。
「まあでも、役割を果たせずダンジョンだけが残ったわけだが……」
紙に記載された内容によると、魔王が滅んで以降、魔物の動きが変化したらしい。
「魔物が活発化……生き延びた魔族が入り込んだとか?」
そういうことなら、すぐに対処しなければならないだろう。俺はこの紙を持って受付へ向かい、女性へ渡す。
「これを」
「はい……え、ディアスさん!?」
驚かれた。魔王と戦ったあなたが何故ここに、みたいな雰囲気である。
「お久しぶりです……魔王討伐を果たした後、王都を拠点にするものとばかり」
「今日王都を出たんだ」
「そうなんですか……お仲間の方は?」
――ここで馬鹿正直に「脱退させられた」とか「追放された」とか言ったら大騒ぎになる。団長達は後ろめたさがあるにしろ、俺としては心機一転という感じなので、ここは軽い感じで答えよう。
「魔王討伐を機に、戦士団を離れたんだ。ま、一人旅というのも悪くないなと思って」
「なるほど……ディアスさんにこの仕事を受けてもらえるのなら、大変ありがたいです」
受付の女性はにこやかに告げると、
「内容は調査なので、ダンジョン内の状況などを確認してもらえればいいのですが……」
「魔物の強さに応じて考えるよ。場合によっては潜り込んでダンジョンの主を倒してくる」
俺の言葉に女性は驚きつつ……こちらの実力なら一人でもいけるだろう、とでも思ったのか小さく頷いた。
「はい、それでは……お願いします」
というわけで、戦士団を離れて最初の仕事はダンジョン調査となった。
ダンジョンに関する仕事は主に二つで、一つは魔物やダンジョン内の調査。もう一つがダンジョンの攻略。調査は報告書を提出して仕事が完了となり、攻略は魔物がいなくなった後にギルドが調査をして、攻略したと認められれば報酬が支払われる。
調査依頼でも、攻略できそうなら踏破することがあった。実際それで結構な報酬をもらったことがあるので、今回も敵の強さによってそうしようと考えつつ――
「おー、いるな」
ダンジョン周辺、そこは周囲が平原に囲まれた小さな山。生え放題の木々が山の構造を見えなくしており、この中腹にダンジョンと化した洞窟があるらしい。
そして山の周辺には魔物……魔王軍直属の場合、一つ目の巨人とか、あるいは完全武装で角が生えた悪魔とか、そういうヤバい敵も多かったのだが、今回の魔物は狼とか猿とか、動物を基にした感じの個体が多い。
実際に動物に魔力を当てて肉体を乗っ取るような作成方法もあるが、俺の見た感じ動物を模倣しているみたいだ。
「ダンジョンの主、魔物の作成能力は低そうだな……」
俺は入口を見つけようと山へ入る。その直後、こちらに気付いた魔物達が一斉に声を張り上げ、威嚇してきた。
ただ、攻撃はしてこない。狼は吠え、猿はキーキーとやかましくするのだが、俺に突撃してくる個体がいない。
「鳴き声を発して近づくなと警告しているのか……」
今まで踏破してきたダンジョンの場合、基本的に魔物は問答無用で襲い掛かってきた。けれど、今回はそうじゃない。
「何かありそうだな……」
魔王が滅んだことと関係しているのか? だとするならダンジョンの主は……と、頭の中で推測しつつひとまず先へと進むことにした。