集いし英傑
ヘレンの話はいよいよ今回の主役であるセリーナへ向けられる。
「さて、最後にセリーナだけど」
「……私に確認をとる必要はないんじゃないの?」
「確かにそうだけど、一応聞いておこうかと」
そのやりとりに対し、眉をひそめたのはミリアやアルザ。事情を知らないのは二人だけのようなので、俺は二人へ解説を加える。
「セリーナは宮廷入りすることを目標としている。しかし、それを阻んでいる……というか、邪魔している存在がいる」
「それがもしかして……」
「そう、今回話に出たギリュア大臣だ。とはいえ直接的に妨害しているわけじゃないけど」
「やり方が陰湿なのよね」
ヘレンが言う。やり口を目の当たりにしているためか、ずいぶんと辛辣である。それに対し俺は、
「なあヘレン、根本的に疑問なんだがなぜ大臣はセリーナを目の敵にするんだ? セリーナの両親と因縁があったとかでも、ここまで邪魔立てするのか?」
「セリーナの家柄がどうとか、その辺りについては大して評価はしていないと思う。英傑という存在が宮廷入りするばかりか、場合によっては権力を得るような状況にある……それに対し警戒しているということ」
「実力もあるから、政争の際に面倒になるってことか」
「騎士の英傑ならともかく、外から入ってきた人間を御するのは面倒だって考えているのかも」
ヘレンは俺へそう答えた後、セリーナへ再び視線を送り、
「クラウスと色々取引はしたと思うけど、もっと直接的な道が開けたって感じかな。この戦いに勝利すれば、邪魔なギリュアを追い落とすことができる」
「クラウスは便宜を図ると言っていたけど、それどころじゃなくなったわね……クラウスにはいつ話すの?」
「当面黙っているつもり。だから、話はしないで。機を見て私が言う」
少し意外だった。俺は明言したヘレンへ向け、
「なぜクラウスだけ?」
「彼は一番ギリュアと接する英傑……ギリュアは確かに戦闘力だけを見たら単なる一般人であり、魔法のまの字も知らないレベルだけれど、狡猾かつ老獪な御仁であるため、警戒するような目をしただけでも怪しまれると思うし」
「なるほど、クラウスに対し迂闊に喋るとバレる可能性があると」
「仲間はずれは心苦しいけどね……ちなみに私の方は城にほとんど寄りつかないし、元々ギリュアのことは嫌いだしもし顔を合わせても問題はないよ」
「それもなんだかなあ……まあいいや。今回の話はこの場に留めておくってことだな。それで――」
「いつ、動くかだね」
俺達はヘレンへ注目する。まだギリュアが関わっているという事実を得たに過ぎない。ここから証拠集めなどを含め、やらなければならないことは多い。
ただ、俺達はロクに手伝うこともできないだろう……それがわかっているためか、ヘレンは告げた。
「当面は私だけで動き回ることになると思う。表向きは王都襲撃から始まる一連の魔族出現騒動……それが何なのかという調査。冒険者ギルドとは連携するからエーナとは密に連絡は取り合うけど、ひとまず他の皆は好き勝手していて構わない。時期が来れば、こちらから連絡する」
そう言ってヘレンは連絡手段を提示した。それは言わば、この場における面々だけで会話できる特殊なもの……こうなることを予期していたのか、連絡用の道具までヘレンは用意していた。
「ギリュアを倒すということ以外にも、英傑同士が連絡を取り合えるようにするのは良いと思うし」
「そこは賛成ですね」
と、シュウラは笑みを浮かべながら同意した。
「反魔王同盟という存在……おそらく今後も人間界への攻撃が続くでしょう。王都ばかりではなく地方でも騒動が起こっていたり、事件の火種がくすぶっているような状況です。私達がどこまで対応できるかはわかりませんが、大きな戦いになる可能性も十分ある。それに備え、連絡を取り合う手段を用意しておくのは大切です」
「魔族が出現したから戦う、っていうのはシンプルでいい」
シュウラに続き、ニックが発言する。
「ヘレンやエーナは忙しくなりそうだし、実働は俺や戦士団所属のシュウラやセリーナがやればいいんじゃないか?」
「ええ、私も賛成です。セリーナについても、ひとまず国側の心象をよくするため魔族を倒し功績を積み上げるべきでは?」
「そうね」
セリーナは頷く。そして残るは俺とミリアやアルザだが、
「ディアス」
名を呼んだのはヘレン。
「そちらは騒動の真相を知りたいってことだったよね」
「ああ」
「なら、色々と手を貸してもらうことになると思うけど……連絡がなければ当然好きに旅をしてもらって構わないから、自分探しは続けなよ」
「言われなくてもやるよ……ま、当てのない旅だし、自分探しなんてものがどこまでできるのかわからないけど」
まあでも、今の状況は悪くない……戦う相手は違えど、再び英傑が集まり巨悪に挑もうとしている。そして魔王を倒したメンバーが集まっている……不思議な高揚感もある。
「――というわけで、今日のところは解散。みんな、よろしく」
最後にヘレンが締めて終了……こうして、英傑達は手を組み再び活動を開始したのだった。