英傑達の協力
「……仲間に手伝ってもらうかは事情を聞き、状況を見て判断するってことでいいか?」
ニックはヘレンへ向け問い掛ける。
「何にせよ、俺自身は英傑として一緒に戦ったからな。手を貸そうかと思ってる」
「ありがと。ならニックはこれで問題なしとして……」
ヘレンは次にエーナへ目を向ける。
「そちらはどう?」
「なんとなーく、何を話すのかは予測できるけど……私は立場もあるから、どこまで手を貸せるかはわからないよ?」
「大丈夫大丈夫。もしエーナに手伝ってもらうとしたら、戦闘面だし」
「まあそれなら……」
「あの」
と、エーナの横にいるノナが小さく手を上げた。
「私はこの場にいて問題ありませんか?」
「ノナさんなら別に……あなたのことは私もよく知っているし。エーナ、問題ないでしょ?」
「立場上、知っておいてもらわないと不都合が出るかもしれないからね……それと、ノナのことは私が保証する――って、ちょっと待ってヘレン。なんでノナのことはさん付けなの?」
「え? だってエーナのことを制御して仕事をさせてる人でしょ? 敬うのは当然だと思わない?」
「私のことを何だと思っているのか……」
肩をガックリ落としつつエーナは言うが……話は聞くようであり、
「私はヘレンやクラウスの味方だし、手を貸すよ」
「よし……で、残るは」
最後とばかりにヘレンはセリーナへ視線を向ける。
「セリーナだけ。返事は?」
「戦士団という立場では面倒な仕事というのはなんとなく理解できたけれど……いいわ、手を貸す。クラウスなんかが関わっているのでしょう? 彼とは色々と約束もしたからね」
「よし、決まり……なら話をしよう。ただ、説明自体は簡単に終わるのだけど」
ヘレンは腰に手を当てつつ、英傑達へ語り出す。
「ここ、ツーランドで起きた騒動……その首謀者を捕まえたことで、裏に繋がる存在を見つけた」
「それは?」
聞き返したのはエーナ。表情はどこか緊張したもので、どういった人物が出てくるのかちょっと怖さも見え隠れする。
そうした中で、ヘレンは言う。
「――ギリュア大臣」
同時、静寂がこの場を包み込んだ。まだシュウラの結界が持続している状況であり、風の音も聞こえてこない。
そうした中で声を発したのは、シュウラ。
「なるほど……予想以上の大物が出てきてしまいましたね。しかしそうなると解せない。なぜあれほどの方がこんな騒動に加担しているのか?」
「ついでに言うと、確証はないけれど……反魔王同盟と関係している可能性もありそう」
「それにまで関連があるとなったら、ますます理解できませんね……正直、力を得て栄達、という領域はとっくに超えているでしょう」
「動機については現状不明。とはいえ、間近で見ていてあの人の欲深さは底なしだと考えているし、あの人の中で合理的な理由があるんでしょ」
「……権力の中枢にいる人の考えはさすがにわかりませんが、そういうものでしょうか」
「俺でも関わったらヤバいとわかる人間の名が出たな」
と、次に発言したのはニックだ。
「言われずとも仲間には言わないさ。下手に口を出したら、人生終わりそうだ」
「英傑には警戒して干渉してこないから大丈夫……とはいえ、何か怪しいものがあっても首を突っ込まないように。私への連絡手段は後で提示するから、旅の最中に気になることがあったらそっちにお願い」
「旅は続けていいのか?」
「今はまだギリュアがやった、という事実を私が明確に納得する形で得ているだけ。彼を権力の座から引きずり下ろすためには、誰もが納得する証拠を手に入れないといけない」
「なるほど。で、その中で戦いが起こるかもしれないから手を貸してくれと」
「そうそう」
「わかりやすいな。それなら喜んで手を貸すぜ……と、ディアス達はいいのか?」
「反魔王同盟と関わっているかは不明だが、もしそうなら俺としては真相を知りたい人間だからな……ミリアやアルザも加わる気でいる。ただ」
ここで小さく肩をすくめ、
「俺もニックと同様旅をしつつ、情報をもらって動く形だけど」
「自分探しはまだ続きそうか?」
「そうだな」
「なんだかこの仕事がメインになりそうな気がするけどな」
「……ま、そうなったらそうなった時だ」
俺の言葉にニックは「そうか」と笑いながら返答した。するとヘレンはエーナへ目を向ける。
「ギルドは直接的にギリュアと関わっているわけじゃないけど……」
「ギルド本部襲撃もギリュアの仕業かな?」
「直接関わっていたかは不明。だけど反魔王同盟と手を組んでいるとしたら……多少なりとも関連はあるかもしれない」
「だね。ただ表立って動くことはできないかな。情報集めもまずいよね?」
「そこは私の方でやる」
「なら、できることは戦いに備えギルド本部の仕事を少しでも減らしておくくらいか」
「できるのか?」
俺はそんな問い掛けをしてみるとエーナは、
「まあ、いつかはやらないと私が死んじゃうし」
「……体には気をつけろよ」
そんな労いの言葉にエーナは「ありがとう」と礼を述べた。