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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第五章

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勝敗

 襲い掛かってくる純白の光に対し俺は杖を振った直後……ギジッ、と何かが歪むような音がした。それは魔力にひずみが生まれたのを意味するもの。途端、小さな亀裂が何かのきっかけで広がっていくように……竜の形を構成する光へそのひずみが駆け抜けた。


 変化は一瞬のことだった。次に聞こえたのは、ザアアッ、という砂を噛むような音だ。それと同時に俺へ襲い掛かっていた光が急速に力をなくした。目前には海が割れるように、白い光が左右で分断され消えていく光景があった。

 そして――奥にいたセリーナが杖を構えたまま呆然としていた。弾かれたり防がれたりしたわけではない。文字通り、真正面から迎え撃って光竜を破壊した……俺は駆ける。先ほどの攻防で魔力は底に尽きかけている。だが、全身全霊で……足に最大限の強化を施し、セリーナへ肉薄する!


「――っ!」


 セリーナが我に返ったのは数秒後。そして体勢を立て直そうとして……それより先に俺の杖の切っ先が、彼女の首筋に突きつけられた。


「……俺の勝ち、と言いたいところだけど」


 セリーナはまだ体勢を立て直していない……が、俺の杖に魔力が残っていないことは、はっきりわかったはずだ。


「俺にセリーナを仕留めるだけの力はない……というか、強化魔法も切れた。一手遅かったな」

「……いえ、ディアスの勝ちよ」


 と、セリーナはあっさりと負けを認めた。


「杖を突きつける時間があったなら、それこそ私の首にナイフでも突きつければ良かったもの」

「……そちらの結界は解けていないだろ――」


 と、言ったところでセリーナを守っていた結界が消失していることに気付く。


「理解した? 詠唱もなしにあの魔法を使う場合、さすがに結界も閉じないと無理なのよ」

「なるほど……ただ、正直勝ったとは思えないな。引き分かってところか?」

「私が負けを認めたのだから、そこはちゃんと受け入れればいいのに」


 どこか呆れたようにセリーナは呟いた後、口元に手を当て、


「なるほど、そうか……負傷していたから、魔法に綻びがあったのね」

「今のやりとりを見て、そこまで瞬時に理解するのか……」

「あの魔法があんな風に壊れるのは、そういうこと。得意魔法であり、切り札であるからこそ、魔法の特性は誰よりも理解している」


 にしても、化け物である……俺が杖を下ろした時、仲間やシュウラ達が近寄ってきた。全員がこの結果を受けて無言となる中、いち早く発言したのはヘレンだった。


「正直、負けると思ってた」

「俺が? まあ、普通に考えたらセリーナが勝つよな。こちらの手の内がさほど知られてなかったらどうにか勝ちを拾えたレベルだ。決闘開始からどうにか仕込みを続けて……結果、勝った。百回やったら九十九回はセリーナの勝ちだよ」

「でも今回はディアスが勝った」


 セリーナが言う。気にしている……という風には見えない。どういう結果であれ、納得はしているようだ。


「師匠の因縁については、これで納得してもらうしかないわね。とりあえず墓前に報告するわ。化けて出てこられるかもしれないけど」

「……万が一そうなったら、ちゃんと浄化はしてくれよ」


 そんな軽口を向けた後、俺はチラッとヘレンを見る。それで理解したか彼女は頷いた。

 この場にはシュウラとかエーナもいるわけだが……それを含めても問題ない、ということだろう。ならば、


「ところでセリーナ、決闘する前の約束は憶えているか?」

「ええもちろん。負けた方は勝った方の言うことを一つ聞く」

「そうだ……内容的にわざわざ言うことを聞く、なんて必要性はなさそうだけど」


 そんな前置きによりセリーナは首を傾げたが……俺は続けた。


「それじゃあ要求についてだけど、今後ヘレンは大きい仕事をやることになる。それに手を貸してやってくれ」

「……ヘレンの?」

「ああ。ただし条件としては戦士団としてではなく個人で……ヘレン、それでいいんだよな?」

「そうだね」

「二人は何を企んでいるの?」

「悪巧みしようというわけじゃない……ヘレン、説明を」

「わかった……と、その前に」


 ヘレンは語り出す前にシュウラやニック、そしてエーナに目を向ける。


「英傑であることからいずれ話すつもりではあったけど、話してもいい? 言っておくけど、事情を聞いたら関わってもらうけど」

「強引ですねえ」


 と、シュウラは苦笑を交えつつ応じた。


「どんな内容なのかは大方予想もつきますし、こちらは聞きますよ」

「ニックはどう?」

「ヘレンの話ってことは、国と関わるってことだろ? 面倒そうだよな」

「そうだね。加え、もし手を貸してくれるにしても、今のところ仲間には事情を話さないで欲しい」

「俺だけで動けってことか?」

「戦列に加わる、という形なら仲間と一緒にやってもらってもいいけど……事情を知らなくても喜んで手を貸してくれる?」

「そういう言い方をされると事情を知らない以上は、仲間に頼むのも悪いって話になるな」


 ニックは応じつつ、難しい顔をする……事情を聞かないまでも、ヘレンがやろうとしていることが、相当厄介なのだと認識したようだった。


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