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前提条件

「――あの魔法の、弱点?」


 セリーナとの最後の攻防、光の竜へ突撃していく中で、俺は一つ記憶が蘇った。そこは戦士団『暁の扉』にある客室。用があると言って訪ねてきたシュウラに応対していると、彼がセリーナの切り札である『光竜召喚』について言及した。


「はい、間近で幾度か見たことがありますが、見た目はド派手ながら竜そのものの姿形はシンプル……白い竜は見栄えも良く、彼女の代名詞と言える魔法でしょう。その魔力構造についても、極めて精密であり付け入る隙がないように見えます」

「シュウラがそう思うんだったらそうなんじゃないか?」

「けれどディアスさん、あなたの見解はどうですか?」


 ――その問い掛けは、俺なら弱点を知っていて当然という声色があった。


「……さすがにあんな無茶苦茶な魔法攻撃を防ぐとかはできないよ」

「つまり、避けるしかないと?」

「ああ、そうだな……とはいえ、あの竜には誘導機能もついている。全力で逃げても追い掛けてくるんだが」

「とはいえ唯一の隙は、セリーナ自身ですか」


 ……魔法を維持し続けなければならないため、基本彼女は隙だらけ。とはいえ、仲間の援護があれば問題はないし、対処法はいくらでもある。


「敵としてはあの魔法を発動させないよう立ち回るしかないな。それこそ、セリーナを執拗に狙うとか」

「詠唱などにより時間が掛かるのが難点であり、とにかく発動を邪魔するというわけですね。ではそれを克服したらどうなるか」

「完璧な魔法になるかもしれないな」


 ――ただ、と俺は胸中で付け加える。確かにあの魔法は発動したら逃れる術がない。仮に俺に使われたらどうしようもないだろう。

 けれど一つだけ、前提条件は必要だが可能性はあると俺は考えた――魔王と戦うなどという状況が来るかどうかわからなかったが、俺はその時が来ることに備え決戦術式を準備をしていた。戦う場合の想定として、魔王が強力な魔法を放った時どうするのか……という仮定をした際、参考になるのがセリーナの『光竜召喚』だった。


 ああいった避けることもできない魔法に対してどうすればいいのか……魔王とたった一人で戦った時、まさしくそうした状況に陥った。俺を飲み込む虚無の魔法……それが炸裂し、俺を消そうと間近まで迫った。

 その時、俺は決戦術式を活用して対処した……もちろん、自分の目論見が通用するかなど、賭けだった。失敗してあっさりと倒れ伏す方が確率としては高かったはずだ。けれど俺は賭けに勝って、仲間達が立て直すまでの時間を稼ぐことができた。


 ――そして今、まさに真正面から俺を飲み込む光が迫る。握りしめた杖へ魔力が終息していくと共に、もう一点……両目に、魔力を集めた。

 光が迫るまでわずかな時間。仲間達からしたらもうどうすることもできないような状況……けれど俺は魔王との戦いで経験していた。文字通り命を賭して迫る虚無の魔法へ、杖をかざしたのだ。


 その状況と同じように俺は光を見据える。見ているのは光そのものではなく、光がまとう魔力。完璧に編まれた魔力は解きほぐすことができないほど強固……のはずだったが、俺は確かに見えた。白い光の中にある、針の穴のような小さな緩みを。

 決戦術式による身体能力強化は、微細な魔力の違いも見極める……俺は全身に力を込めた。一瞬だけ――セリーナが誇る最強魔法に対し、ほんの一瞬だけなら、俺は拮抗するほどの魔力を発することができる。


 圧倒的な力を持つ相手に対し、その一瞬でどうにかするために……俺は、この魔法を生み出した。魔王との戦いを想定していたけれど、やれることは限界があった。しかし、魔王との戦いで俺の攻撃が一瞬でも隙を作れたら……そんな風に考え、構築した。実際は隙を見いだすどころか、倒れ伏す仲間達を守るために使用した。

 あの場の戦いはまさしく限界を超えるものだった。けれど、俺は耐えた。そして魔王の攻撃を防ぎ続け……仲間が復活し、打倒することができたのだ。


 光と俺の杖が激突する。振りかぶった俺の杖は、狙いを定めた場所へ寸分の狂いもなく突き刺さった。途端、光の勢いによって俺は体がもっていかれそうになる。

 けれど俺は踏ん張った……いや、それどころか足を前に出した。俺の杖は光竜の急所を完璧に捉えた。ならばここで吹き飛ばされるようなことになってはいけない……そこで杖先から確かな手応えを感じた。


 ――セリーナの魔法は完璧だ。本来なら俺が隙を見いだすことはできなかったはず。しかし、彼女は負傷した。痛みなどを誤魔化しても、血を流した分だけ魔法には綻びが生じる。俺が見つけた急所は、まさしく負傷をきっかけに生み出されたもの。これこそ、必要な前提条件だ。


 魔王が放った虚無の魔法を防いだのは、俺を侮っていたからのはず……攻撃を防いだ後、魔王の動きは苛烈になった。つまり俺は、決戦術式によりどんな小さな隙も見逃さなかったから戦えた……そう確信しながら、全力で杖を振り抜いた。


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