戦友と死闘
まさかの英傑集合……ということでビックリしたし、その状況を宿の部屋に戻ってきたミリアやアルザに話した結果二人も驚いた。
なおかつ部屋を訪れたヘレンも予想外だったのか首をひねるような所作を見せ、
「まさかそんなことになるとは……」
「とはいえヘレン、事情説明はやりやすくなったんじゃないか?」
「そうね……英傑の面々には伝えておかないといけなかったわけだし、これを利用しない手はないか」
「エーナにも確認はしたんだが、この状況は問題ないか?」
「英傑が集まっていること? さすがに個人で動いている英傑の動向までギリュアがわかっているとは思えないし、たぶん大丈夫。決闘の際に派手にやったらギリュアの息が掛かった人間がのぞきに来る可能性はあるけど」
「……結界を強固にして、外に魔力が漏れないようにすべきだな」
その辺りはちゃんとやっておこう……で、だ。
「シュウラとニックは純粋に観戦だから、セリーナが許可しなければそれで終わりなんだけど」
「うーん……さすがにセリーナも拒否はしないんじゃないかな」
「どうしてだ?」
「共に戦った戦友だからね」
――肩を並べて戦ったからこそ、思うところがあるというわけか。
「ディアスはそんな風に思わないの?」
「俺は英傑としてのセリーナより、戦士団副団長としてのセリーナの方に意識が向くからな……それに、俺自身英傑と並んで戦ったというよりは、後ろで援護していたという感じだし」
「魔王を一時食い止めても?」
「あれは色々な条件が重なって生まれた奇跡みたいなものだから……今回、それを利用してセリーナと相対するわけだけど、果たして通用するかどうか」
ただまあ、手の内がわかっているからといってセリーナは「発動時間に制限がある」として時間稼ぎに終始する、みたいなことはしないだろうと踏んでいた。決闘ではあるけど、今回は少々事情が違う。何でも使って勝てばいいというわけではない。自分自身を納得させるための戦い……よって、正面からぶつかってくるだろう。
正直、現在のセリーナとまともにぶつかることができる魔術師なんて国中探しても片手で数えられるレベル……いや、いないかもしれない。それだけの強さを持っているし、俺はその全てを理解している。正直、小手先の対策でどうにかなる相手ではない。
「……なんだか」
ふと、ヘレンは俺へ向け言及する。
「最強の相手だとわかった上で、ディアスは楽しそうだね」
「楽しそう? 俺が?」
「うん。因縁めいた関係で、それに決着をつけるため……と、なかなか重い内容だけど、セリーナとの勝負を楽しみにしてそうな気配がある」
言われ、俺は考えてみる。少なくとも不快ではない。それに「ようやく今回の戦いでセリーナとの因縁がなくなる」という安堵でもない。
むしろ俺は追い出されても不快に感じなかったのだ。確かに傍から見ればややこしい関係性かもしれないが――
「……少なくとも」
俺はヘレンへ向け発言する。
「セリーナが戦士団に入ってきてからの関係性が一度終わることになる……その後どうなるのかは正直わからないけど、期待……しているのかな」
「ディアスはセリーナのことをどう思ってるの?」
「俺か? 副団長ということで規律に厳しいし、怖い人物だなと思っていたけど……戦士団のためにやっていたことだし、ムカつくとかはなかったな」
「それだけ?」
「俺の感想がその程度、というのはセリーナからしたら苛立つ要因かもしれないけどな」
「……なんだか、さっぱりしているのね」
ミリアがどこか呆れた風に呟く。
「ディアスがそれでいいのであれば、私達も受け入れるけど」
「みんな、そんな重く考えなくてもいいんだぞ? 確かに外野からしたら複雑な関係性だけど……セリーナに直接聞いたわけじゃないけど、今回の決闘はネガティブなものじゃなくて、ここで一度関係性をスッキリさせようという意味合いのものだから」
「でもそれは、死闘になるのよね?」
「そうだな。互いに全力……本気じゃないと、死ぬかもしれない」
さっき重く考えなくていい、と言っておきながら死闘である。矛盾しているようにも感じられたが――
「……ミリア達は深刻に受けとめなくていいよ。ただ、決闘の内容次第では関係性がこじれる可能性もゼロじゃない。そうはならないよう、全力は尽くす」
その発言を受け、ヘレンは窓の外へ目を向けた。
「……今もセリーナは準備中かな」
「だろうな。三日で準備を終える、と言っていたけどそれでも結構な大変だと思う……が、彼女が持ちかけた決闘だ。必ず準備を尽くし、戦いに臨むだろう」
そこだけは間違いない……戦士団の副団長として、準備に余念がなく戦いの日にはベストコンディションを維持していた。自己管理は完璧だ。
「俺の方は体調をベストに持って行くつもりで、ここからはゆっくり過ごすことにしよう。というわけで、食事にでも行こうかな――」