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新たな観客

 翌日になって俺は作業を完了して全ての準備を終えた。セリーナの方はまだ作業しているだろうから、あとは待つだけとなる。

 その間に町の様子を改めて確認。とりあえず何事もなく、魔物からの攻撃という大事件は終わりを告げたと言っていいだろう。ただ表面上穏やかだけど町長がいなくなったことによる影響は後々出てくるだろう……ヘレンがどこまで面倒を見ているのかわからないし、治安維持を行う騎士だけでどうにかなるのか不安要素ばかりだが……ここは任せるしかない。


 そこで俺はふと考える。今回の事件を参考にすると――


「魔族は権力者と協力していそうだな」


 ギリュア大臣と手を組んでいることからも、そういうことなのだろう……いや、逆でギリュアが手引きをしているのかもしれない。魔族は人間界に影響を与えて何をするつもりなのか現時点では不明だけど……。


「大臣を捕まえたら解決する話なのか?」


 そして新たな疑問が口から出た。これもかなり大きな問題である。ヘレンは日頃の恨みを含めてギリュア大臣に狙いを定めているわけだが……大臣を打倒したらそれで終わりなのだろうか?


「王宮内にいる魔族との内通者……それが一人であると断言できるわけでもないよな」


 とはいえ、ギリュア大臣クラスの存在が手引きしているのであれば、仮に内通者が複数いたとしても人間側の親玉ポジションは大臣になるだろう。


「結局は捕まえてみて魔族がどう動くのかを観察するしかないか……」


 まあそこは仕方がない。俺は息をついて歩き出そうとして……大通りの中を歩くシュウラの姿を捉えた。


「何をしているんだ――」


 と、呟いた時彼の横にいる人物を見て驚いた。そこでシュウラ達は俺の存在に気付く。そして近寄ってきて、


「ディアスさん、どうも」

「よっ」


 ――そして、シュウラの隣にいたのは英傑の一人であるニックであった。


「……どうしてここに?」

「偶然近くに滞在している時にシュウラが会いに来て、面白いことがあるということで誘われ来た」

「仲間はどうした?」


 周囲を見回す。彼一人みたいだが……


「仲間については置いてきてくれとシュウラに言われて」

「……シュウラ、どういうつもりだ?」

「ニックの仲間が信用できないわけではありませんが、必要以上に事情を知る人間を増やすのは如何かと思いまして」


 ――ギリュア大臣のことはシュウラにまだ話していないのだが、この様子だと気付いているのか? いや、今回のセリーナとの決闘……そのことについてあまり公にしない方がいいという判断か。


「昨日言っていた観戦者ってニックのことかよ……」

「その通りです。別に構わないでしょう?」

「許可取りは俺じゃなくてセリーナに言ってくれ。決闘そのものも向こうから提案されたものだからな」

「わかりました」

「……連れてきた状況で言うのもあれだが、観戦を断られたらどうする気だ?」

「そこはまあ、上手くやりますよ」

「えー、見せてくれないのか?」


 と、不満っぽい感じでニックが言う。


「すげえ面白そうだから、ここに来たんだが」

「……まったく」


 俺は半ば呆れたように声を上げつつ、


「俺の方は別に言わなくてもいい……シュウラ、セリーナの機嫌を損ねたらどうなるのかはわかっているよな?」

「ええ、それはもちろん」

「ニックを連れてきてしまったのなら仕方がないし、英傑同士だからまあ大丈夫だとは思うけど……穏当にやってくれよ。でないと、怒りの矛先が俺に向けられる」

「はい、わかりました」


 綺麗な微笑でシュウラが言う……正直、非常に胡散臭い。

 そんな反応は一度や二度ではないので俺はこれみよがしにため息を吐いた後、手を振って二人と別れた。


 まさかニックが来るとは……この調子だと英傑全員が集まるとか? いや、さすがにクラウスやエーナがここへ来るはずはないか。

 そしてシュウラの意図とは何か……セリーナが本気で決闘をする。確かにその事実だけでこの町へ来るだけの価値はあるかもしれない。ただ、シュウラのやることである以上は、何か裏があってもおかしくはなさそうだ。


「決闘を通じてセリーナに取り入るとか? とはいえ、セリーナの方もシュウラには警戒しているだろうからなあ」


 戦士団で仕事をしていた時、俺はセリーナに英傑の中で一番手強い存在は誰かと問い掛けたことがある。彼女はそれに即答し、実力的には間違いなくクラウスであり、策略的な面ではシュウラだと答えた。その時の彼女は、


「たぶんシュウラは相手の力量や思考の深さを推察し、対応を変えているようね。私に対しては、極力情報を小出しにしている……たぶん、彼としても私の能力を警戒しているってことね」


 そんな風に語っていた。別にシュウラの所属する戦士団と争ったこととかはないけど、同業者であり商売敵ではある。だからこそ、一歩でも優位に立とうとする……裏で火花が散るような戦いがあったのかもしれない、と俺はなんとなく思ったのだった。


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