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強さの証明

「団長からしたら、俺の扱いに困ったのは事実だろう」


 俺は提供された水を飲みながらセリーナへ話す。


「それに、俺自身ロイドに言われるまで戦士団を抜けるという発想はなかった……あのまま居座っていたらそれはそれで面倒なことになっていたかもしれない」

「ずいぶんと冷静ね」

「セリーナが聞いているかどうかはわからないが、俺自身は旅を始めるきっかけくらいのもので、団を抜ける要求をされたこと自体は不快でも何でもないんだよ」


 そう告げたがセリーナは微妙な表情である。


「……で、話を戻すが考えが変わったというのは、決着をつけなければならないと判断したってことか?」

「そうね」

「団員の一人も連れていないということは、これは完全に私的なものだよな?」

「ええ。私の気持ちだけの問題ね」


 認めたセリーナだが、表情は変わらない……俺を真っ直ぐ見据えている。


「セリーナがそうまでして決着をつけたいと願ったのは……何があった?」

「きっかけそのものは魔王を倒した後、それこそめまぐるしく変化する戦士団の状況を目の当たりにして」


 セリーナは一口水を飲む。気付けば彼女は食事を終えようとしていた。


「作り上げた戦士団が壊れ始めた。もちろん、あなたを追い出したことは私の責任であり、それを背負う気ではいたけれど、想定以上に影響は大きく、脱けようとする団員を止めるだけで手一杯だった」


 一瞬、ここで「何かフォローでもしておいた方が良かったか」と尋ねようと思ったが、意味がないと悟った。俺を追い出したのはセリーナだ。そんな相手にフォロー云々を言われた時点で、彼女としては微妙な気持ちになるだろう。


「そんな中、王都が魔族によって襲撃された。都を守るために動き回り、最後に遠目ながらディアスの姿を見た……その時、改めてあなたという存在が私の中で浮き彫りになった」

「浮き彫り、か」

「気付けば、因縁が蘇っていた……それと同時に思った。仲間と共に魔王を倒し、その戦果を持って強さの証明とする……それも一つの答えではあるけれど、そこで満足しているようでは先がないと」


 セリーナは、笑う。


「そもそも、私はディアスの持つ魔法で気になるものがある……魔王とたった一人で相対し、食い止めた魔法。決闘ではそれを使い、勝とうとしているのでしょう?」

「まあな」


 隠す必要性もないと思い、俺はあっさり同意する。


「正直、魔王相手に通用するかもわからなかった博打のような魔法だ……結果的に上手くいっただけさ」

「だとしても、あなたは他の英傑が成し遂げていない、魔王と互角に戦える技法を持っている」


 セリーナは鋭い視線を向け、


「ならば――魔王と肩を並べたあなたに勝って、もう一度強さを証明してみせる」

「……三日後、楽しみにしていてくれ」


 ――そこから程なくしてセリーナは店を出た。そのタイミングで俺の料理が運ばれてくる。


 料理を食べつつ、俺は先ほどのセリーナ……彼女の姿を思い返す。


「吹っ切れたような感じだったな」


 戦士団を切り盛りしている時は、眉間に皺を寄せながら働いているような雰囲気もあった。実際好き勝手する戦士団をまとめ上げるには、厳しい顔つきになってしまうだろう。

 優秀であったセリーナにはそれができたわけだが、大変だっただろう……けれどこの一時、しがらみから解放され力を追求するだけの彼女が表に出てきた。それこそ、彼女本来の姿かもしれない――


 食事を進めていると、ヘレンが店に入ってくる姿が見えた。彼女は俺を見つけるとすぐさま近寄ってきて、


「セリーナを知らない?」

「さっきまで店にいたけど、食事を終えたら出て行った」

「そっか」

「何か気になることが?」


 問い掛けた後……俺は彼女が何をしようとしているのかわかった。


「ああ、そういうことか……ヘレン、そちらが考えていることについては決闘後、俺からセリーナへ話す」

「……どうして?」

「実は今回の決闘で勝った方が相手に一つ要求できるように段取りした」

「つまり、もしディアスが勝てば……というわけか」

「ああ。戦士団副団長という立ち位置ではなく、彼女個人に……そういう風にした方が良いと思うんだが」

「そこには同意するけど、そもそも勝負に勝たなければ駄目よ?」

「わかっている……けど、保証はできそうにないか。セリーナが勝ったら、ヘレンが上手く丸め込むということでいいか?」

「私に投げるか……まあいいか。うん、それでいこう」


 傍から聞いていると主語のない会話で意味不明かもしれない……そんなことを思いつつ、俺はパンをかじる。


「勝負、気になるか?」

「そりゃあ英傑と、それに準ずる称号を持つ人間との決闘だし――」


 会話をしている間に店の扉が開いた……のだが、現れた人物を見て、俺は目を見開いた。



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