完璧な存在
セリーナと会話をした後、俺は再度宿へ戻った。ミリアやアルザは帰ってきており、なおかつヘレンまでいたのでセリーナと顔を合わせることになったのだが……全員が全員目を丸くした。
「初めまして。事情は聞いているわ」
セリーナの自己紹介に対しミリアは「はあ……」と言葉を濁しながら応じる。とりあえず握手なんかはしたのだが――ここでヘレンが近寄ってきて俺へ小声で問い掛けてくる。
「どういう状況?」
「セリーナ自身、思うところがあって個人的な要件……俺と決闘をしに来たというわけだ」
「……何でディアスの居所を知ってるの?」
「探し方はいくらでもある。一番可能性が高いのはエーナ経由だな。俺とエーナが知り合いであることはセリーナもわかっているし、手紙で報告もしているから俺がここにいることはすぐにわかるはずだ」
ツーランドにおける事件がもっと早期に解決していれば、セリーナが来ても俺達が旅立った後という可能性もあった。けれど想像以上に時間が掛かってしまったので、彼女がやってくるだけの時間が生まれてしまったというわけだ。
「セリーナとしても俺達がいるかどうか賭けに近かったとは思うけど……」
「なるほど。しかし、またずいぶん思い切った行動を――」
「ヘレン、久しぶりね」
話の矛先がヘレンへ向けられた。そこで彼女は居住まいを正し、
「うん、久しぶり」
「……いつも思うのだけれど、私に対してだけ反応が違うような気がするのだけど」
「そんなことないよ?」
そういえば、なんだか苦手だとヘレンは語っていたなあ……セリーナの規律を重視する性格とかが特に、とか以前言っていた。
「……まあいいわ。それでディアス、いつやる?」
「そちらの都合でいいぞ」
「わかったわ。なら三日後に」
その言葉に対してもミリア達は目を丸くした。すぐにでも――それこそ今すぐにとか言うだろうと思っていたのかもしれない。
ただ、セリーナがそうやって言うのには理由があるし、俺は理解できるので、
「わかった。宿はどうするんだ?」
「既に決めてある。あなた達の邪魔をするつもりはないから」
そう言って颯爽と宿から去った。どうやらミリア達と顔を合わせておこうという理由で宿へ来たらしい。
そして残された俺達は……最初に口を開いたのはミリア。
「あまりに唐突な展開でビックリしたのだけれど……決闘、ということでいいのかしら?」
「そうだな。お互いの因縁をここで完璧に清算しようというわけだ」
「……戦士団から追放した張本人だというのに、ずいぶんと淡々としているわね」
「俺自身さして気にしていないからな……ただ、俺が無頓着だったせいで、セリーナの方が苦労したみたいだが」
「そうだね」
ヘレンが同意した。そして彼女は俺へ向け、
「三日間も待つというのは理由があるの?」
「セリーナの異名は知っているか?」
「当然でしょ。『全能の魔術師』――ありとあらゆる種類、属性の魔法を網羅している最強の魔術師」
「その力を完璧にするには、下準備が必要なんだよ」
ヘレンは初耳だ、という風に驚いた表情を示した。
「準備がいるの?」
「ああ。魔王との戦いの場合は、その下準備を道具などで代用した。結果、魔王ともセリーナは全力で戦うことができたわけだが……平時ではそんな道具をすぐに用意できるわけじゃない。あれは王宮の資金力があってこそだからな」
「で、準備をするために三日というわけか」
「その通り……ま、何をしているかは決闘の際に自ずとわかるはずだから、解説はしない。決闘の場所は……ヘレンとアルザが戦った場所だろうな」
場所までわかるのか、という顔をしたミリア達。俺はそんな様子の彼女達を見つつ、
「今回は互いに全力で応じるために準備をするわけだが……俺の方も入念な対策をしておこうかな」
何をする気なのかという視線がミリア達から向けられる。俺はそれに構わずさらに続けた。
「ミリア、アルザ。今日だけでいいからおつかいを頼まれてくれないか?」
「私は構わないわよ。何を買ってくればいいの?」
「メモ書きして渡すから。ああ、そんなに大層な買い物じゃない。セリーナが下準備までやって決闘をする以上は、気合いを入れないと一瞬で勝負がついてしまう。最初から全力でやるために、色々と備えておく」
――その言葉でミリア達は何をするかわかったらしい。と、ここで俺は、
「たぶんだが、セリーナは俺の切り札について知っている」
「知っている?」
「セリーナに直接見せたわけじゃない。でも、共に戦士団として戦っていたわけだし、なおかつ彼女は『全能の魔術師』だ。俺のやっていることなんてお見通しだろう」
正直、俺にとって彼女は完璧な存在……シュウラとの決闘には勝ったが、今回は魔法という分野において最強と言ってもいい相手。真正面から打ち合って勝てる道理はないのだが、
「やれるだけやってみよう……こちらが全力で応じること。それこそ、セリーナが望んだものだろうからな――」