政治において――
今後どうするかはとりあえず決定したし、ツーランドに滞在する必要もなくなった。よっていつ出立しようかということをミリア達と相談する必要があるのだが……それより前にヘレンへ確認しておかなければならないことが一つ。
「ヘレンは今後配下の騎士と一緒に行動するということでいいのか?」
「仲間に入らないということで残念だと思った?」
「いや、別に」
「即答……まあいいや。ディアス達の旅についていくというのも、共闘した時点では考えたけど私とは一緒にいない方がいいでしょ」
……俺自身、魔族相手に戦って目立っているし、ここにヘレンまで加わったらややこしい事態になる可能性があるってことか。
「英傑同士で組んだらどうなるか、ちょっと楽しみにしていたけど」
「俺は英傑入りしていないぞ……とにかく、ヘレンは今後ギリュアを追い詰めるために動くわけか。大丈夫なのか?」
「私が心配?」
「相手は王族であろうが容赦しないだろ」
俺の言及にヘレンは素直に頷いた。
「そうだね。王族だけど王宮にそれほど影響力がない私は、例え英傑であってもギリュアは攻撃してくるだろうね」
「……実力行使に出てくるなんて可能性は低い。でも、政治的に追い詰められたらどうしようもないぞ」
「現時点ではまだ私が大臣が首謀者であると知っている……その事実は露見していない。あくまで表面上は魔族を追っている……そういう形で事を進めないといけないね」
彼女の言及に対し、俺はこれみよがしにため息をつく。
「正直、先は長そうだな」
「うん、そこは間違いない……けど、相手は政治において最強の存在。それに挑むのであれば、当然じゃない?」
……なんだか、むしろ燃えているような感じだな。元々、彼女はギリュア大臣に対し色々思うところがあった、というより実害を食らっていたかもしれない。
だが今回、ギリュア大臣を倒せる公然とした理由ができた。よって、やってやろうという気になっているわけだ。
正直、俺としては手を出すことすら躊躇われるレベルだが……ただギリュア大臣としても相当リスクの高いことをしているのは間違いない。これが露見すれば所持している権力は有名無実化するし、なんなら追放――あるいは、それ以上の展開が待っているかもしれない。
「なあ、推測でいいから質問があるんだが」
「何?」
「ギリュア大臣について……まず、彼自身何かしら力を持っていると思うか?」
「そこはないと断言できる。なぜなら持っていることで危険度が増すから」
「……クラウスなんかが気付くかもしれないと」
「その通り。ギリュアは英傑という存在を警戒している。魔族と繋がっているのならなおさらね。そんな人間が力を持っていたら露見する可能性を考慮しないはずがないもの」
ここでヘレンは「それに」と付け加える。
「道具などを所持している可能性もゼロだね。誰かに見咎められたらそれで終わり。もしもの時に備え道具なり力なりを所持しているなんて可能性もゼロ。ギリュア自身の戦闘能力は皆無。そんな人間が力を得ても多数の騎士や宮廷魔術師がいる城を抜け出せるとは思わない」
「ギリュアはそれがわかっているから、力そのものは持っていないと」
「そうだね。特に今は王都襲撃なんて事件があったから、より王宮内は警戒している。クラウスが常に目を光らせている状況である以上、力を持つこと自体がリスクになる」
うん、そこは納得できる。
「わかった。俺もそこについては同意だ。なら次は……魔族との連絡手段」
「暗号化していれば手紙などを使ってもそう問題にはならないと思う。そもそもギリュアのやりとりを監視しようとすれば、どういうことかと他ならぬギリュアが非難するし」
「魔族と内通しているという情報がなければ検分もできないってことか。暗号を読み解いたヘレンの証言だけでは――」
「王宮内ではギリュアの味方が圧倒的。やっぱり検分する口実としては弱いかな」
改めて考えると、本当に面倒だな……ただ、
「魔族とのやりとりがどういう経路で行われているのか……その辺りを知れば、手紙の内容を見たりすることだってできるかもしれない」
「どちらにせよ、魔族との交戦は避けられないかな」
「ただ、さすがにギリュアもここまでの騒動を俺達が解決していることから警戒して引っ込めと指示しているんじゃないか?」
「その可能性も十分ある。でもそれならそれで構わないかな」
「どういうことだ?」
聞き返すとヘレンは微笑んだ。
「騒動がないのであれば、こっちは魔族のことを調べる時間が増えるから」
「……色々と情報が集まりつつある中、調査に集中すれば何かわかるかもしれないってことか」
「その通り」
俺の言葉にヘレンは頷く。そして、どう調べるのかについてもある程度考えついている様子。
ならば何も言うまい……と、ここで俺は最後の質問をした。
「リスクを承知で魔族と手を結んでいるのは何故だろうな?」
「そこは、本人に聞かないとわからないね」
ヘレンは肩をすくめつつ、そう答えたのだった。