険しい道
「まず、町長の屋敷で得られた情報について……当然だけど、ギリュアに関連する名前が直接出てきたわけじゃない」
と、ヘレンはそう切り出した。
「例えば極めて解読困難な暗号とかにされているわけだけど……実は私、ギリュアが使用している暗号の解読方法を知ってるの」
「何でなのか聞いていいか?」
「隙あらば追い落とすため」
はっきりとした宣言にミリアやアルザは目を丸くして驚いた様子。
「あの人は政治中枢になくてはならない存在ではあるけど、同時にいずれ国に災いをもたらす存在にもなる」
「俺は会ったことがあるからなんとなくわかるけどさ……自分が王様にでもなるつもりか?」
「さすがに王族が存命である以上、それはない……傀儡を仕立てるつもりではあるだろうけど。実際、今の陛下を決める際にも、そういうゴタゴタはあった」
「初耳なんだけど」
「当然よ。国の恥として情報統制したもの」
なるほど、王族すら巻き込んで騒動を引き起こすわけだから、ヘレンとしては印象最悪なわけだ。
「だから色々と検証して、解読方法を編み出した。これは私が自力で見いだしたもので、今初めて喋った」
「執念の賜物か……よく解読できたな」
「ま、ギリュアのことを知るために色々と調べたからね。彼の素性とかから類推して……というわけ」
「で、俺達に話して良かったのか?」
「手を貸してもらう以上は、ちゃんと話さないと駄目でしょ?」
「ガッツリ働かせる気だな……」
「その分報酬は弾むから」
まあ、それなら……。
「話を戻すと、暗号の内容からギリュアが主犯であることは確定した」
「なるほど……で、町長に提供した道具とかの出所は?」
「それは魔族。ギリュアが個人的に付き合いのある存在みたい」
「それが反魔王同盟?」
「そこまではわからないけど、現時点で拾える情報を統合すればある程度は判断できると思う……まあ私の見立てでは、反魔王同盟かな」
「……確認だけど、暗号文が証拠となって捕まえるとかはできないのか?」
「あくまで私が解読できただけだし、証拠としては弱いと思う……そもそも、私が色々言っても権力的にはギリュアが圧倒的に上。握りつぶされて終わる」
例え真実をつかんでいても、政争で勝てない以上、あらゆる手段で巻き返してくるというわけか。
「もしギリュアを捕まえるなら、それこそ言い逃れできないような状況で、大量の証拠を突き出すしかない」
「両方満たさないといけない、というのはかなり厳しいよな……」
相当険しい道である。
「それじゃあヘレン、具体的にどうするんだ? ギリュア大臣が主犯であるとして、捕まえるためにはどういう手順を踏む?」
「直接ギリュアを狙ってどうこうするのはたぶん無理」
ヘレンは断言した。
「アイツは絶対に直接的な証拠をつかませないようにしている……なおかつ絶対的な権力を持っている以上、ちょっとのことで地位は揺るがない」
「だろうな」
「でも、魔族側からの情報があれば話は別じゃないかと思う」
「つまり手を組んでいる魔族を見つけて、証拠を手に入れると?」
「そういう流れになる」
「例えば、これは私を失墜させて政治的に混乱させるための罠だ、とか言われたら終わりじゃないか?」
「そうさせないような証拠を手に入れるしかない……どちらにせよ選択肢はないよ。ギリュアを狙い撃ちにするのは魔族を見つけるより大変だし、そもそもディアスとしてはあまりやりたくないでしょ?」
そこについては迷わず頷いた……ヘレンに協力するつもりではいるが、政争に加わるというのは正直面倒事が増えるだけだ。
「よって、魔族を狙う。私やディアスが魔族を追うのはそれなりに理由もあるし、見かけ上怪しまれることはないと思う」
「少なくともギリュアから見て違和感はないと……ただ、今回の事件はどうする? 町長を捕まえたことによって、俺達のことをギリュアに警戒されて監視でも付けられたら厄介極まりないぞ」
「断言はできないけど、あくまで魔族を調べていた結果町長が犯人だと辿り着いた……みたいな感じで報告すれば大丈夫じゃないかな。それに、ギリュアは私が結構勘が鋭いとわかっているし、監視するような人間を派遣することはない。それはディアスも同じ」
「俺も?」
「英傑を監視していたら察知される危険性が高いからね。ギリュアは自分を追い落とす存在に対し警戒はするけど、それよりも悪事を働いているという証拠を作らないように立ち回っているから、誰かを監視するとかはあまりしない」
「俺達の能力については高く評価しているわけか」
「その通り。だから私達が活動すること自体は問題ないよ……それよりも大きな問題は、ギリュアと直接手を組んでいる魔族がどこにいるのか」
「さすがに魔界にいるんじゃないか?」
「可能性は高いけど、ギリュアと少なからず連絡は取り合っているはず。手紙だけのやりとりか、それとも顔をつきあわせてか……どちらにせよ、魔族側を調べることがギリュアを捕まえる近道だと思う――」