首謀者
「とりあえず、ツーランドの騒動については解決と言っていいと思う」
ヘレンはなおも俺達へ語っていく。
「魔族の動向はわからないけど、町長の手紙にも距離があり連絡ができなくなったと書かれていた。よって、当面は大丈夫だと思う」
「厳戒態勢は終了ということか?」
「町長が主犯者だったということで、終わりになる……まあ、町長が犯人だったことにより、別の意味で混乱する可能性が高くなるんだけど」
それはそうだな……むしろ、町の情勢だけを見れば混沌が広がる危険性が高い。
「ま、ここはなんとかするよ。王都側から騎士を引っ張ってきているし、彼らと町の騎士団をどうにか動かして」
「騎士団の方に魔族の内通者はいなさそうか?」
「問題なさそう。それに、私が町長の屋敷で調べ回っても介入してくる存在がいなかった……その事実から町の騎士団に魔族と内通する存在はいないと断定できる」
つまり、町長の屋敷に眠っていた情報は核心的なものだったということか。
「思考誘導の魔法については付与されているし、一番の心配はそこだけど」
「ま、他ならぬ町長が証拠付きで捕まったんだ。大丈夫だろ」
俺はそう楽観的に告げた後、ヘレンと視線を合わせた。
「それで、相変わらず表情を硬くするだけの情報というのは何だ?」
……ヘレンは即答しなかった。そればかりかまだ逡巡している様子。
「正体を知っただけでもヤバいって話か?」
「そういうことじゃなくて」
「じゃあ何だ?」
「知ったら強制的に巻き込むことになるよ」
「ヘレンから仕事を頼むってことか?」
「そういうこと。何しろ宮廷からは応援を期待できない……英傑のクラウスだけかな」
「ならミリア達に同意を得ないとまずいな」
「というかディアス。自分探しの旅はどうしたの?」
俺へ向けヘレンは尋ねる。
「別にディアスが率先して関わる必要はないよ?」
「まあそうなんだけどさ……」
と、ここでヘレンは微妙な表情をした。話せば関わることになる――というわけだが、どうやらそれ以外にも理由がある。というより、
「……もしかするとなんだが」
「何?」
「実は俺も何かしらの形で関わりがあるってことか?」
ヘレンは何も答えなかった……ただ肯定の沈黙というわけでもない。どうやら微妙な感じらしい。
「そうか……ミリア、アルザ、二人はどうする?」
「私はディアスに従う」
最初に意見を表明したのはアルザ。
「私はディアスにくっついていればお金が稼げると考えて一緒にいるわけだし、大きい仕事なら報酬も出るでしょ?」
「王族相手の仕事だから金払いは確かだな……それに、アルザから言わせれば王族とのコネもできる」
「そういうこと……でもさ、ディアスはいいの?」
「んー……ヘレン、仮に話を聞いて仕事を受けることになったら、すぐに動くのか?」
「準備があるからディアスの力を借りるのは当面先だと思う」
「なら、準備までに地方を巡って旅をすればいいか」
「……そんなので見つかるの?」
「自分ってやつを、か? まあ色々考えたんだけど、そういうやり方もありかなと」
結局、どこまでも戦い戦い……ただ、そんな旅路も悪くないと思ってしまう自分がいる。
もしかすると、自分探しということで最後は戦士団に戻るなんて終わり方があるかもしれないなあ……などと考えているとヘレンはそれを読み取ったか、
「戦闘バカだよね、ディアス」
「ヘレンに言われたくはないな……ミリアの方はどうだ?」
俺は視線をミリアへ向ける。
「今更ではあるけど、まあ反魔王同盟というものも関連してくる……色々事情があって人間界を旅して回るミリアとしては、戦場に飛び込むことになるけど」
「……私も色々と考えたけれど、この旅を通して強くなることが重要だと私は考えた」
と、ミリアは意外な言葉を告げる。
「自分一人で戦い抜けるだけの力をつければ、心配される必要もないからね……それに、反魔王同盟のことも気になるし。一応、隅っこだけど魔王候補である私にとって、目的が気になる」
「わかった……というわけでヘレン、俺達としては構わない……が、態度からしてなんとなく察せられた。もしかして、ギリュア大臣とかが絡んでいるんじゃないか?」
――ヘレンは身じろぎした。唐突に核心を言い当てられて、驚いたらしい。
「なるほど、それなら俺も当事者……かどうかは微妙にしても、関わりがありそうだ」
「……隠し事はできないね」
「当てずっぽうで言ったみたが、根拠がないわけじゃなかったからな……わかっていると思うが、ギリュア大臣が相手だとするなら死ぬほど面倒だ。何せ、宮廷内の政争を勝ち続けてきた重鎮だからな」
観念するようにヘレンは頷いた。それで、ミリアやアルザも息をのむ。
「ちなみにミリア達はギリュア大臣のことを知っているのか?」
二人は首を左右に振った。まあ政治に詳しい人じゃないと厳しいかな。
「了解した……それじゃあヘレン、詳細を語ってもらおうか」
「わかった」
ヘレンは返事をした後、俺達へ向け語り出した。