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奥に潜む存在

 町長の捕縛については、完璧な段取りをもってして行われた。そもそも町長は自分が追い込まれていることも感知できていなかった……道具によって力を得たことで増長し、魔力を探る能力すら手にしなかったことが災いした。いや、研鑽を積もうにもできなかったと言うべきかもしれない。


 夕刻、仕事を終え役所から出た町長はどこにも寄らず真っ直ぐ屋敷へと帰った。そして門の前に辿り着いた時――騎士に包囲され、あっさりと捕まった。

 使い魔を通してみたその顔つきは、何が起こったのか理解できないといった風だった。即座にどういうことだと騎士を問い詰め、相手が町の騎士団ではなくヘレンが呼んだ王宮からの騎士団であることを知り、青ざめた。


「な、何故だ!? 何故私をこんな――」


 そんな叫び声を上げる間に、騎士は連行を始めた。そして道中で事の一切を聞かされたらしい……観念した表情を示した後、今度は震え始めた。

 それが何を意味するのか……俺はなんとなく推察しながら、詰め所まで連行される町長の姿を確認し、捕縛は何事もなく終了した。


「……うん、ヘレンによってあっさりと捕まった」


 俺が言うと、ミリアやアルザは安堵した表情を示した。


「これで逃げられたら面倒だから良かったわ」

「そうだな……さて、後は屋敷を調べるわけだが……もう動いているな」


 ヘレンは配下の騎士を引き連れて町長の屋敷へと踏み込んだ。捕まえた直後の行動であり、性急にもほどがあるわけだが、俺はその意図をすぐに理解した。

 おそらく一日でも間を開けたら証拠がどうなるかわからない、というわけだ。もしかすると彼女は町長の奥に潜んでいる存在が何者なのか、予想しているのかもしれない。


 つまりそれは魔族ではない……いや、奥のどこかに魔族がいるのは確定しているだろうが、町長と繋がっているのは人間なのではないか――


「情報ってこっちにも来るかな?」


 ふいにアルザが発言する。事の顛末がどうなったのか、という点だろう。


「そもそも魔物の攻撃について、解決したかもわからないし」

「そこは屋敷を調べてみてからだな。無関係であったなら改めて調べればいい。今度は騎士団が主体となって、ヘレンが率先して動くだろ」


 俺はさっぱりとした口調で語った後、手を一つパンと鳴らした。


「俺達の出番はなさそうだし、今日のところは寝るとしよう」

「ヘレンは?」

「さすがに今日中に戻ってくることはない……ま、徹夜して情報をとりまとめて……明後日かな。というわけで寝るとしよう」


 俺の言葉にミリアとアルザは部屋を出て行く。さて、ようやく事態が動いたわけだが、ここからどうなるか。


「魔族については警戒する必要はあるけど……」


 捕縛の際に何一つ動きはなかった。アルザが神経を研ぎ澄ませて索敵したわけだし、町中にはいない可能性が高いだろう。

 まあそもそも彼女が呼んだ騎士は相当な実力を持っているっぽいし……何か騒動があってヘレンから連絡があったのなら動けばいい。というわけで俺は、ベッドに入ることにしたのだった。






 俺の予想通り、翌日は情報のとりまとめをしていたらしく、ヘレンは来なかった。さらに次の日になって俺達の宿屋へ顔を出したのだが。


「おはよう」

「……ずいぶんとまあ、硬い顔つきだな」


 俺は挨拶してきたヘレンに対しそう言及した。


「どうやら相当ヤバそうな雰囲気だな」

「……話、聞く?」

「確認だけど、どこまでわかった?」


 ――ここでアルザやミリアが部屋にやってくる。三人して椅子に座り、ヘレンの言葉を待つ。彼女は話すべきか思案した後、ゆっくりとした動作で着席し、


「まず、魔物の攻撃について。これは町長の仕業だと確定した」

「へえ、あれもか……でも悪魔とかいただろ? それも町長が使役したのか?」

「遠隔から魔族が悪魔を寄越して援護した、という形だったみたい。予定では魔物の攻撃によって城壁などに損害を与えつつ、騎士団の気を引いている間に悪魔が町に攻撃する手はずだった」

「けどヘレンがいたから……」

「そう。私によって悪魔による被害は皆無。魔族は既に索敵の範囲外に逃れているみたいだけど、それについては国が調査をする」


 そう語った後、ヘレンは腕を組みながら続けた。


「町長の目的は、騎士団の権威を脅かして自分が町の権力を完全に掌握すること。そういう願望を持っていた彼に魔族……というか、それを手助けしようとある人物が接触を図ったことがきっかけだったみたい」

「人物……そいつが魔族と協力関係にあるってことか」

「そうだね。おそらく魔族や町長と関わっていた人物は、魔物を使役する道具などの検証も兼ねていたと思う」


 ……実際、実験については成功と言って構わないだろう。魔族が率いずとも、ツーランドという町にある程度ダメージを与えることができた。単なる人間……魔力の扱い方すら知らない人間でも魔物を動かすことができる。これもまた、大きな技術だろうと俺は感じた。



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