複雑な情勢
やがて俺は使い魔を通して相手が移動した先を見つけることができたのだが……そこについて調べると、
「役所関連の施設だな。とりあえず一時しのぎとしてここへ通したか」
「ほぼ確定ね」
憮然とした表情でヘレンが言う……無理もない。思考誘導の魔法――そこについては犯人が確定してしまったのだ。
「しかし、何でまたこんなことを……」
「騎士団をどうにかする、というのが主な理由かな。ただ現時点では町への攻撃と関連しているのかはわからない」
「そこは別に証拠を見つけないと、動けないってこと?」
「現時点で町長が町に魔法を付与していることはほぼ確定と考えていい。ただ、これだけでは弱い。町へ攻撃した魔物達と関わりがあるかどうかは、もう少し調べないと」
「魔法についてはどうするの?」
さらなるヘレンの疑問に対して俺は、
「そこは道具の詳細について調べないといけないな。破壊して単純に魔法の効果が切れるのかもわからない」
「解除するのも大変ということね」
「魔法そのものは既に付与されているからな。とはいえ思考誘導くらいのレベルだし、一人一人の影響はそれほど大きくない。魔法を付与しなくなったら影響はなくなるし身体的にも影響はないはずだ……それと、洗脳しているわけじゃないから、町長が魔族と関わりがあった、という事実さえ公表すればいくら思考誘導していても人々は町長を敵だと認定するはず」
「何はともあれ証拠か」
「怪しい存在は見つけたけど、あくまで思考誘導の魔法に関することだからな……これについては公になっているわけじゃないし、これで早急に動くことはできないな」
ヘレンは微妙な表情をする。現在進行形で人々に影響を与えているわけだし、それを是正したいのは理解できる。
「もう少し我慢してくれ……さて、アルザの索敵により少なくとも町中に魔族がいないことはわかった。では町を攻撃した魔物を率いていた存在はどこにいるのか?」
「アルザが見つけた存在が思考誘導魔法と並行してやっているのか……それとも……」
状況は進展したが、さらに複雑な情勢となってしまった……ただ単純に主犯者を見つけるだけじゃない。というより、敵は絶対に捕まらないように周到な準備をしている、と考えるべきだろう。
では俺達がとれる行動は何があるのか……俺はアルザへ向き、
「一つ質問がある。例えばツーランドを襲った魔物達……その魔力に関する情報があったら、それを基に気配を探ることはできるか?」
「……不可能じゃないと思うけど、さすがに厳しいかな」
「わかった。なら別のアプローチが必要だな」
「そもそもそんな情報があるの?」
「ヘレン、どうだ?」
「データを採取しているわけじゃないけれど……あ、一応事後処理の際に調査をした面々がいたかな。ただ、魔力を収集したわけじゃないと思うけど」
「厳しいということか……ふむ、悠長に町長の動きを待つよりは自発的に行動したいところだが」
どうしよう……悩んでいると、次に口を開いたのはミリア。
「もし町を攻撃したのが町長だとしたら、当然何かしらの手段で魔物を操ったのよね?」
「だろうな。少なくとも町長は魔法に関して素人だったし、魔物を使役する何かを魔族から提供を受けた可能性はある。本来なら魔族は俺達の索敵に引っ掛からない場所で待機していると考えるのが普通なんだが……」
現在騎士団だけでなく冒険者ギルドも動いている。ただそちらでも見つかっていないし、とっくに逃げたか魔族ではなく魔族と手を組んでいる人間が指揮していた、と考える方が妥当かもしれない。
「ミリアの語った内容を正解だとすると、当然町長の家とかに魔物を操る道具とかがあってもおかしくはない」
「その辺りについて、調べられないかしら」
「道具があるのかどうか?」
「ええ、怪しい道具なんかをアルザの気配探知で捉えることができれば、事態は一気に解決する。まずは思考誘導の魔法を使っていたという点で町長を捕まえる。その後、魔物を操る道具などを見つけることができれば……」
「なるほど、思考誘導の一件を利用して家などを調べると。まあ町長が町に害をもたらしているという点と考慮したら捕まえる理由としてはそれだけで十分か。ヘレン、外部から騎士を用意することは?」
「さすがにこの事態であれば動いてくれるはず」
「わかった。なら騎士団に連絡をとって町長を捕まえる。その過程で魔物を使役できる道具が見つかれば、犯人は町長ということになる」
「問題はこれで解決しなかった場合だけど」
「その時はその時だな」
うん、プランとしては概ね決まったかな。
「なら、今からは町長に捕まえるための証拠……その辺りをもっと見つけ出して逃げられないようにしよう。アルザ、引き続き魔力探知を頼む」
「わかった」
「ヘレンは騎士の応援を。ただしこの町の騎士も巻き込みたい」
「内通者はいないと考えてよさそう?」
「末端の騎士はどうかわからないけど、俺達と話し合った騎士なら大丈夫だろう。彼と話し合って、町からも騎士を出してもらう……そうすることで、多少なりとも騎士団の評価が上がるはずだ――」