新たな変化
町長の態度としては、町に魔族がいるなどと……言動に対し怒っているわけではなく、純粋に俺が調べようとしていることに対し内心で懸念している風に見られる。
空き家とかそういう場所を調べられたらまずいという反応であり、この様子だとおそらく今後は――
「……わかりました。何かしら怪しいポイントを調べましょう」
やがて町長はそう宣言した。俺の言葉を無碍に扱えば怪しまれると判断した様子。
「とはいえ、多少なりとも時間は掛かります」
「ええ、構いません。魔族が潜伏していることから、近々に何か騒動が巻き起こる可能性は低いと思いますので」
「この騒動、時間が掛かりそうですか?」
「何はともあれ、敵を見つけ出さないことには事態が進展することはないので……それ次第とも言えますね」
「騎士団の方は?」
「現在仲間の方が探りを入れています。とはいえ、魔族の捜索そのものに進展がない以上、あまり情報は取れないかもしれませんが」
その言葉に町長は頷いた。当然だろう、という雰囲気である。
「わかりました。何かありましたらすぐに連絡を」
「はい」
とりあえず、収穫はあったかな……仮に町長が魔族と繋がっている存在だとして、俺の助言によって行動を起こすとしたら潜伏している魔族の居所を隠すだろうか。
町長が変な反応を示したのは間違いないが、それだけで町長が敵だと判断するのは早計である。ただ、相手の態度から何かしら行動するのは間違いないだろう。
さて、騎士団の方はどうか……宿へ戻ってくると既にヘレンは帰ってきていた。こちらの言葉に対し町長が反応していたのを説明するとヘレンは、
「そっちが当たりかな?」
「騎士団はどうだったんだ?」
「現在も魔族は捜索しているけど進捗なし。あと、騎士団に対し不満を漏らす人がいるというのは伝わっているみたいで、少し焦っている様子だった。正直、詰め所の中もそのせいで雰囲気が悪かったし、騎士側に魔族と結託している人間がいるとは思えないかな」
「……現状では町長側が怪しいかもしれないが、ひとまずアルザが見つけた場所を観察し、どういう動きをするか判断しよう」
「私達の勘違いだったらどうしようかしら」
ミリアの問い掛けに対し俺は小さく肩をすくめ、
「そこはあまり心配していない。というのも、アルザが怪しいと判断したなら間違いなく当たりだ」
「ずいぶんと信頼するのね」
「その能力でここまで活躍してきたからな」
俺はアルザを見る。相変わらず宙に視線を向けているのだが、見ていることに気付いたか小さく笑った。
「ま、変化があったら言うよ」
「わかった。何か要望とかはあるか?」
「特にはないかな。それもあったら言う」
「そうか……敵が動き出す可能性は十分あるし、ここが踏ん張りどころかもしれない。ヘレンやミリアも、町の状況に変化があれば報告を頼むよ――」
そして、およそ丸一日経過した時のことだった。アルザが観察していた場所に動きがあり、どうやら何者かが出てきたらしい。
「魔族ではないけれど、明らかに濃い魔力を感じることができる」
「人間ってことか?」
「うん、そうみたいだね」
ふむ、魔族であるなら話は早かったのだが……。
「で、その濃い魔力というのは?」
「道具の類いじゃないかな」
「思考誘導の魔法を維持するための道具……といったところかな」
「たぶんだけど」
「ディアス、どうする?」
ヘレンが質問してくる。単なる人間が相手ということで対応を変える必要が出てくるんだが……。
「あと、ディアス」
俺が思考し始めた時、アルザがさらに提言した。
「出てきた何者かに同行者がいる」
「……魔族相手じゃないし、気取られることもないだろうから使い魔で確認するか。場所はどの辺りだ?」
アルザから話を聞いて生み出していた使い魔を飛ばして確認する。
「同行者も人間か?」
「うん、そうだね」
その時、俺は使い魔を通して動く姿を確認できた。ローブ姿でフードを被っておりほぼ真上からの確認なので人相を窺い知ることはできないが。
「人間みたいだな……それと、魔法の道具を持っているのは間違いなさそうだ」
加え、使い魔を通して感じられる魔力……上空からでも明らかにわかるその気配は、町中に付与されている魔法とそっくりだった。
「見つかったが……まだ動かない。ひとまずアルザ、動いている人間の監視はするから、他に何か異変はないか確認してくれ」
「わかった」
「ヘレン、仮に騎士団を動員してくれと依頼した場合、人数は確保できるか?」
「可能だけど……騎士を用いて取り押さえるの?」
「そういう可能性もあるって話だ。現時点で俺達が見つけ出したこの人間達が魔物の攻撃を関連があるかはわからない。そこは相手の動向を調査して、確証が得たら動くことにしよう」
「なるほどね……了解した」
――そうして俺とアルザは人間の監視を続けた。