揺さぶり
アルザによると、怪しい場所というのは町の一角、住宅街の中にある建物の中らしい。
「魔力を遮断しているというか……魔法じゃない何かの手段で閉じているみたい」
「その建物の中に何があるのかわかるか?」
「現状では何とも……時間を掛ければ何かわかるかもしれないけど」
「それ以外の場所に似たような建物はあるか?」
アルザは首を左右に振る。ということは、一ヶ所だけか。
「ひとまずアルザはその建物に絞って気配探知を」
「わかった」
「現状、敵は町を攻撃して以降は動いていない……敵の狙いは不明だけど、時間を掛けても問題はないだろうから少しずつ調べていこう」
俺の言葉にミリアやヘレンも同意するように頷いた。よって、
「アルザのやることについてはこれで問題ない。残る俺達はどうすべきか」
「町長側と騎士団に探りを入れてみる?」
提案したのはミリア。確かにそれも手ではあるな。
「もしやるなら、町長に少し揺さぶりを掛けてみたいな」
「揺さぶり?」
「魔族が町中にいるかも、と提言したら何か動きがあるかもしれないだろ?」
「ああ確かに……その場合、反応するのは町長かしら?」
「思考誘導の魔法は町長側を有利にしているわけだから、怪しいのは町長だと思うんだが……どちらでもないという可能性もあるな」
「どちらでもない?」
「町を混乱させるために反魔王同盟の連中がこの町へ攻撃している……という風に捉えることもできる。今までギルド本部襲撃については、俺達が偶然訪れた時に攻撃が始まったわけだが、あれもずいぶんと遠大な計画だった」
「確かにそうね……技術開発をしていたわけだし」
「思考誘導の魔法も長い時間を掛けてやる必要があるわけで……これもまた遠大だ。ただ、この町を混乱させるためにやったとはいえ、町長側が有利になるような思考誘導をさせる必要はないし、何かしら人間の思惑が入っているとは思うんだけどな」
そう述べた後、俺は腕を組む。
「今日はとりあえず探りを入れてみよう……町長側は俺が、ヘレンは騎士団を頼む」
「わかった」
「ミリアについてはアルザの傍にいてやってくれ。一人で延々と作業というのは大変だろうし」
「わかったわ。お菓子とかお茶とかも改めて買った方が良いかしら」
「ああ、それが良さそうだ……というわけでヘレン、早速行動しよう」
「了解」
彼女の返事と共に、俺達は部屋を出た。
「それで、状況は如何ほどですか?」
俺は町長のいる詰め所を訪れ話をする。出迎える言葉も短く、見ようによっては苛立っているようにも感じられる。
「現在、こちらも独自の方法で索敵をやっている最中です」
「おお……英傑であるあなたであれば、よほどの手法があるのでしょうな」
……正直、英傑だからといって特別なことをやっているわけじゃないが、戦闘面について素人である町長ならばそう思っても仕方がないだろう。
さて、探りを入れるのはいいが、あまり核心的な内容を話しても怪しまれる……ということで、
「調査の進捗については、明確になり次第すぐに連絡します。今日ここを訪れたのは別の理由がありまして」
「先の戦いのことですか?」
「それだけでなく町のことです。冒険者ギルドなどで今回攻撃を仕掛けた存在……おそらく魔族ですが、出現について兆候がないかを調べていたのですが」
「特に見つからなかったと」
「はい。魔族がこの町を狙うとして、具体的な動機や狙いがわかれば、そこから推測して居場所などを特定できるかもと考えまして」
ここで俺は、確認するような声音で、
「もう一つお伺いしたのが……町中で潜伏できそうな場所などの心当たりはありませんか?」
「……潜伏?」
「何かしらの手段で町中に入り込んでいる可能性もゼロとは言えません。もちろん、騎士団は敵がいないか確認はしたと思いますが」
――その言葉に対し、町長は僅かに身じろぎしたのを俺は見逃さなかった。これは単純に町中に魔族がいるかもしれないという懸念を抱いたのか、それとも別に理由があるのか。
「……ふむ、町中ですか」
町長は考え込むような仕草をした後、
「正直、魔族が入り込むこと自体、私としては考えられないのですが」
「過去、町中で戦闘をしたケースもあったので」
「なるほど、そうですか……ふむ」
にわかに信じられない、という風な様子を見せているのだが……魔族が間近にいるかもしれないというのに、むしろあり得ないという態度はなんだか変だな。
やっぱり今回の騒動については町長が絡んでいるのか? とはいえ、これだけで決めるのは早計だなと考えつつ、俺は町長の言葉を待つことに。
「……確認ですが、それは廃屋などですか?」
「魔族の中には人間を協力者として行動する者もいます。よって、空き家や場合によっては誰かの家の中、という可能性もあるかと思います。索敵については町中も範囲に入れているのですが、そういった情報があれば作業が早いので」
町長はますます渋い反応をした。これはどうやら、大当たりかもしれないと俺は感じた。