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退魔の応用

 両者の魔力が剣へと収束を果たした時、とうとう剣戟が激突した。直後響いたのは凄まじい轟音。うねり上げるような重い金属音と魔力の衝突によって引き起こされたものだとわかる。

 そして、両者は……せめぎ合い、まさしく拮抗。とはいえ、表情に明確な違いがあった。アルザの表情は極めて冷静であり、一方でヘレンの方は予想外、といった風に困惑の顔つきだった。


「ちょ、っと……!」


 剣を受けて何かを理解したのか彼女は声を上げながら引き下がった。途端、アルザは追随する。動揺しているヘレンに対しこの機を逃さないと、ピッタリと食いつく。

 ヘレンはその動きを読んでいたみたいだが、アルザの剣を防御することで手一杯の様子だ。最初の激突で大きく状況が傾いた……これにはミリアも驚いているらしく、


「どういうこと……?」

「ミリア、魔力を探ってみて何か感じないか?」


 俺は既にアルザが何をしたのか把握できていた……が、内心では驚愕している。退魔の力――それを応用しているのは間違いない。


「いや、もしかするとこれがアルザの持つ退魔……その本質なのかもしれない」

「それは……?」


 ミリアが問い返しながらも視線は決闘する二人へ向けられる。何をしているのかを探ろうとしている。

 状況はヘレンが防戦一方で、アルザが完全に主導権を握っている。なぜこんな状況になったか……先ほどの激突でヘレンが動揺しただけではない。アルザの策は、今も継続している。


「……これは」


 やがてミリアも理解してきたのか、小さく呟いた。


「魔力の流れが……」

「ああ、そういうことだ」


 俺は彼女の言葉に深く頷く。


「アルザの持つ退魔の力……それは基本、魔物や魔族相手に使うものだ。魔を退ける力……彼女が持つ能力。英傑入りするだけの力だが、まだ先があった」


 俺の目にはヘレンが剣にまとわせた魔力を、アルザの剣によって弾かれる様をしかと映していた。


「魔を退けるということは、つまり魔力をも退ける……弾く性質があるということ。魔力同士がぶつかると、基本的には力勝負と同じでどちらが強いかで決まるけど、アルザの場合は少し違う。魔力というのは練り固めることで強力な刃にも盾にもなるわけだが、アルザの退魔は強固になった魔力を分解する性質があるみたいだ」


 とはいえ、さすがに凝縮した魔力全てを一気に消し飛ばせるような真似はできない。実際ヘレンは剣に魔力を注ぎ続けて魔法剣を維持しているわけだが……アルザの退魔は言わば凝固した魔力を崩して弱らせる。なおかつ揺さぶったりして動きを乱す。そういう風に扱うことで、ヘレンの魔法剣を巧みにいなしているわけだ。


「これは相性的にアルザが有利だな」


 俺は口元に手を当てつつ考察する。


「ヘレンは魔力……魔法剣を活用して戦うタイプだ。彼女が持つ剣は一般的な物とそれほど変わらないが、それを魔法によって包むことで無類の剣へと生まれ変わる」

「でも、退魔の能力で弾かれてしまうと……」

「ヘレンが持っている剣が何もまとっていなくとも強力であれば話は別だった。アルザの能力……その欠点はあくまで剣が魔力に触れた部分にしか効果を発揮しない。例えばヘレンが名剣を所持していて、魔法剣で包むのではなく剣そのものに魔力を叩き込んで剣の切れ味が増すような特性であったら……」

「剣そのものが強力になるから、アルザの能力が通用しにくいと」

「そうだ。剣術面ならば正道を突き進むヘレンの方が上だったと思う……しかし、彼女が持つ能力を完全に封殺できる手段をアルザは持っていた――」


 ギィン、と一つ甲高い音がしてヘレンの剣が手から離れ地面に転がった。これで勝負ありだ。


「……はあ」


 そして、ヘレンは息をつく。


「まさかここまでしてやられるとは……」

「相性の問題だと思うけど」


 アルザが言及。そこでヘレンは、


「打ち合ってそこはわかった。退魔の能力……魔力そのものを弾く、かあ……魔法剣で強くなる私とは相性が最悪だね」


 ちょっとばかり落ち込む様子のヘレンに対し、俺へ一つ口を開く。


「なら純粋な剣術で勝負するか?」

「技術云々はあんまり興味ない。ま、アルザの能力がわかってたのなら少しは抵抗できたかもしれないけど……私も修行が足らないか」


 やがてヘレンはさっぱりとした口調になった。あんまり引きずらない……いや、深く考えないように努めているといった感じかな?


「アルザ、ありがとう……ちなみにだけど、功績を上げて英傑入りを再び目指すとかしないの?」

「興味がない」

「……まったく、一匹狼であることといい、珍しいタイプね」

「でも譲ると言ったらもらう」


 ――そんなアルザの言葉に、ヘレンはとうとう笑い出した。


 勝負はついた……が、後に引きずらない清々しい終わり方のようだ。


「さて、ヘレン。気は済んだってことでいいんだな?」


 俺が近づいて問い掛けると、ヘレンは笑いを収め首肯する。


「うん、そうだね」

「なら、明日以降の予定を話すとしよう。ここへ来るまでに新たにわかったことがある。それを踏まえた上で、明日から行動する――」


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