現状整理
翌日、俺はポーション作成のための買い出しに出た。その間にも町の情勢などを確認するが……不安の色が濃くなってきている。なおかつ騎士団の評判も……この状況ではいずれ町長が主導で騎士団に対し色々と干渉する可能性が高い。
人々から支持を受けている以上、町長が動き出すのは時間の問題かもしれない……この状況では、俺達が魔族を見つけ倒したら……騎士団の面子を潰す形になって決定打になる。
「騎士団に情報を流して魔族を討ってもらうというのが一番だけど、問題は騎士団側に魔族との内通者がいた場合は十中八九取り逃がすよな」
状況を改めて整理しよう。まずツーランドに魔物の軍勢が侵攻し、騎士団は冒険者ギルドに所属する戦士達と連携し、ヘレンの加勢もあって迎撃に成功。またヘレンが倒したのは悪魔であり、その強さから魔族が率いていたと断定し、騎士団は魔族探しを始めた。
けれど成果は現状上がっておらず、捜索する場所すらなくなりつつある状況……そんな中で業を煮やした町長が俺の名声から仕事を頼んできた。また、ヘレンについては騎士団に素性を伝えているがそれが外部には漏れていない。
そして町中には町長を支持するような思考誘導の魔法が掛かっている……疑問はこの魔法を使ったのはいつで、誰がやったのか。そしてどういう手法で魔法を掛けているのか。
断続的に魔法を掛けていたのであれば、町中に魔力が常に滞留しているはずで、魔力探知に優れた戦士や騎士なら違和感に気付くはずだ。けれどそういう情報はないし、俺の目にもわからない……ということは、どこかのタイミングで魔法を付与して、おそらくその効果が維持されている。
「俺が騎士や仲間に掛ける強化魔法みたいに、本人の魔力を補助するような形だな」
燃料として魔力を使うのではなく、車輪として魔法を使う……といったところだ。燃料ならばただ消費されていくだけだが、車輪――この場合、付与された本人の魔力に干渉して、思考誘導され続ける。付与した魔力の維持も本人の魔力から拝借する……という術式にすれば、本人が意識的に魔力を閉じない限りは効果が発動し続けるし、効果が長持ちする。
で、魔法に縁もゆかりもない人々にとっては、魔力を操作して閉じるという行為はできないので、意識的に解除はできない……思考誘導というそれほど影響がない魔法ではあるが、その仕組みはおそらくとんでもない技術だ。
「魔族由来の魔法である可能性は高いけどな……」
俺はここで、少し意識して人々を観察する。途中で立ち寄った店で薬草を購入する際、俺は魔力を頭部に注いで感覚を鋭敏にしてみる。
それによって、おぼろげではあるが何か魔力が見えた……といっても極めて薄い。その効果を検証できるレベルにはない。
「でも、魔法が付与されているというのは改めて確認できたな」
次に俺は、大通りを進む商人などに目を向けた。どうやらその人物は今日、町へ辿り着いた……そうした人物を注視するが、魔力は見えない。
町に入ってきた人間に魔法を付与する、という仕掛けであった場合は、今日町を訪れた商人にも影響はあるはずだが、それはなさそうだ。
「ということは事前に魔法を付与している……その事前というのは、魔物による襲撃の前か?」
つまり、魔族は仕込みを行った上で攻撃を仕掛けた……疑問なのは何故このタイミングなのか? 反魔王同盟絡みであるなら、相次いで起こした事件の一部と考えることはできるが……いや、待て。
「魔物の襲撃のタイミング……ヘレンが推測した王都襲撃からやり方を変えた……」
もしかして冒険者ギルドの襲撃と関連しているのか? 例えば聖王国各地で攻撃を行い、混乱させるとしたら……。
「こればっかりは主犯者を捕まえないとわからないけど、ありそうだな……うん、事件の構造については理解できたな」
襲撃する前のタイミングで仕込みをしていたのなら、魔法が付与されているなんてわかるはずもない……町の人々にとっては回避できない攻撃だったわけだ。
さて、現状については理解した。では肝心の首謀者はどこにいるのか? そしてそれは魔族なのか、それとも人間なのか……加え、町長もしくは騎士団と繋がっているのかどうか。
「町長と繋がっているのなら、まだわかりやすいけど……騎士側の誰かが繋がっているとしたら、面倒なことになるな」
敵は間違いなく、ツーランドから騎士を追い出そうとしている……そこまでいかなくとも、騎士団の政治的な影響力をなくそうとしているのは間違いないだろう。それをさせないように事件を解決しなければならない――
難題ではあるのだが……探る手段がないわけじゃない。俺は買い出しを進めながら思考し続ける。目当ての品はすぐに見つかり、順調に予定を消化しながら……俺は考察を進めた。