何者かの魔法
俺の言及に対し仲間達の視線が集まる。そこで俺は、
「ミリアやアルザも聞き込みはしたか?」
「したわよ」
「うん、した」
「評価としては基本、町長よりの意見が多かったわね」
「そうだな……で、だ。その意見って画一的じゃなかったか?」
その質問に対しミリアもアルザも……特にヘレンが一番強く身じろぎして反応した。
「町長は真面目に仕事をするし、反対に騎士団は……という口上ばかりじゃなかったか?」
「え、ええ……そうね」
「騎士団について、何か悪い噂があるのかと尋ねても冒険者の手助けがなければ魔物を倒せないとか、何で偉そうに町の自治を担っているんだとか、そういう感じだっただろ?」
「……何か、作為的なものがあると?」
「俺はそう感じた……もしかすると、魔族が絡んでいるかもしれない」
その言葉に仲間達の顔に緊張が走る……そうした中で言及したのは、ヘレン。
「洗脳の魔法とかが仕込まれているってこと?」
「さすがにそのレベルじゃないよ。そこまでいってたらとっくに騎士団は町の人から公然と批判されて追い出されている。そこまですると怪しまれるから……精々思考誘導レベルだ。町長が悪いことをしていない。騎士団は怠慢だと、そんな風に考えるようになっているんじゃないかと」
俺はそう語った後、小さく肩をすくめる。
「もっとも、町の人全員というわけじゃない。魔法の出力を上げると勘づかれる恐れがあるから、効果については生来の魔法抵抗力によって差が出ている……そして」
俺はここからが重要だと、間を置いて語る。
「この魔法の範囲は町全体に掛かっている……俺の仮説が正しい場合、魔族は既に町全体に干渉している」
「危険な状態ってことか」
ヘレンの顔つきが変わる。町に被害が出るかもしれない、という可能性を考慮しどう動くべきなのか思案し始めた。
「問題は魔族はどの程度影響を与えることができるのか……そして肝心の魔族の居所だが……ヘレン、どう思う?」
「町中にいる可能性もありそう?」
「ゼロじゃないと思う。というより、外を探してもいないということはむしろ内側という可能性も……」
魔物などがいないか索敵魔法は使っただろうけど、町中で内通者がいるとあっては、単純な魔法では探せないだろうな。
「少なくとも魔法が掛かっていることは間違いないと考えていい。これが魔族の仕業なのかは調査が必要だけど。ただ……俺達は自由に動けるとはいえ、町中で索敵魔法なんて使ったら、魔法を掛けた存在に気取られてしまう可能性はある」
「つまり、より慎重に行動する必要があると」
ヘレンの言及に俺は小さく頷く。
「で、どうする? 例えば魔法を使わず気配を探るだけなら魔族がいる場合でも気取られないとは思うけど……」
「なら、こういうのはどう?」
と、アルザが手を上げた。
「霊脈を使って魔族を探したのと同じように、強化魔法を使って私が気配を探る」
「といっても索敵魔法は使えないぞ。あれは霊脈と俺の索敵魔法を応用したものだからな。単純な気配探知だけでやれるのか?」
「まあまあ、とりあえずやってみようよ」
なんだか自信ありげだな……根拠があるのかと尋ねようとしたが、それは中断し、
「わかった……が、さすがに気配を断っている魔族を強化魔法込みの気配探知だけで探せるとは思えない。少し工夫も入れよう」
「工夫?」
「ポーションの作成講座を受けただろ? 数種類の薬草を用いて、感覚を研ぎ澄ませる……あと集中力などを引き上げる効果のポーションなんかを作成できる。それを使って身体能力上げてから挑戦した方がいいな」
「わかった。ならそれで」
まあ聞き込みだけでは解決するのは難しそうだし、やるだけやってみよう……ただし入念な下準備は必要だ。
「明日はその準備のために買い出しだな」
「それなら私達三人は自由?」
小首を傾げ問い掛けるヘレン。俺は同意のために頷くと彼女は笑みを浮かべ、
「それじゃあ私は明日、ちょっとやりたかったことを実行しようかな」
「……何をするかは想像つくけど、ほどほどにしてくれよ」
そんな俺の言葉もヘレンにとってはどこ吹く風といった感じだ。
「何をするのかしら?」
ミリアがヘレンへ向け疑問を放つが、当の彼女は笑みを浮かべて誤魔化すような感じ。ここでやりたいことを話そうかとも思ったが、この調子だと無理矢理にでも口止めされて終わりそうだ。
「……ちゃんと同意は得てくれよ」
「もちろん」
俺とヘレンの会話にミリア達は訝しんだが、尋ねるようなことはしなかった。よって俺は、
「話をまとめよう。明日はひとまず自由。俺は魔族を見つけるための準備をする。その途中で聞き込みくらいはするし、何かわかったら報告するよ」
……厄介な仕事ではあるが、仲間達の表情は暗くない。ま、ヘレンという英傑までいるんだ。魔族と交戦することがあっても大丈夫だろうという楽観的な考えが、根底にあるのだと俺は感じた。