長い仕事
時間にして十秒ほど経過した時だろうか。騎士ヴァナは俺達へ向けようやく話し始めた。
「対外的に見れば、魔族は見つからず進捗は芳しくないと思うところでしょう。ですが、やっていないということではありません」
……その物言いは、どこか引っ掛かるものだ。嘘は言っていないとようだが、かといって正直に全てを話しているという風には見えない。
「先も言った通り、地底奥深くについても調査はしました。けれど、見つかっていないため……」
「対外的には何をしているだ、という風に見られると」
ヘレンの言及に対し騎士ヴァナは小さく頷いた。
「はい……とはいえ捜索は続けます。ただ、現状手詰まりに近い状況でして」
調べるところがない、ということを言いたいのかな。作業の進捗が上手くいっていないということで、町長側からは探していないという風に見えているのかもしれない。
とはいえ、騎士の物言いはどこか引っ掛かる……何か隠しているようだが……。
「そう、わかった。こちらから手伝えることはある?」
「現状は特にありません。進捗があり次第、ご報告させて頂きます」
――話そのものはそれで終わってしまった。というより、
「なんか、隠している雰囲気があったな」
帰り道、俺は言及するとヘレンは同意するように、
「そうだね」
「何か知っているのか?」
「まず情報をまとめようか。町長側の言い分と騎士側の言い分、食い違っているところだけど……可能性は二つだね」
「二つとは?」
聞き返すとヘレンは笑みを見せ、
「すなわち、騎士側と町長側……どちらが魔族と手を組んでいるのか、だね」
時刻は昼前。俺達は酒場へ入り昼食をとることにして、話し合いを始める。魔族と手を結んでいる存在……物騒な話ではあるが、ちゃんと考察しなければならない。
「魔族と絡んでいることは確定なの?」
注文を済ませた後、切り出したのはミリア。目を合わせられたヘレンは首肯し、
「はっきりとした証拠はない。でも、町長と騎士……双方に思惑なんかがあるみたいだし、この調子だとたぶん」
「……まあ、魔族が絡んでいなくても」
ここで俺が口を開く。
「騎士団と町長が争っていることだけはわかるな……というか、魔物の出現を利用して権力争いをしている、といった感じかもしれない」
「少なくとも、そこは間違いなさそう」
ヘレンは同意……魔族と本当に繋がっているかは不明だけど、両者は何かしら今回の騒動を利用しようとしているってことは確定……いや、
「騎士団側は利用というよりは、戸惑っている気配の方が濃かったけどな」
「たぶん騎士ヴァナが関わっていないんだと思う」
「ヘレン、それはつまり騎士団の誰かが今回の騒動を利用して……ってことか?」
「うん、そう」
それはそれでややこしいな……で、最大の問題としては、
「これ、さっさと解決させないと町が無茶苦茶になりそうだな」
「より正確に言えば、町の自治に影響が出る」
「大変だな……町の権力争いに終始してくれるのであれば、国に影響はなさそうだしこれ以上の面倒は増えなさそうだけど」
「それはどうかなあ」
ヘレンは視線を逸らしながら言及。どういうことだ?
「魔族絡みであるなら、話は変わってくるかもしれない」
「この騒動が国……ひいては王城の政争に関連すると?」
「まだ確定したことは言えないけどね。最悪、そのパターンもあり得る」
……彼女は王族であるため、俺以上に色々と想定しているらしい。
そうなると、こちらとしては関わり合いになりたくないくらいに面倒なんだけど……放置していて騒動が解決する可能性は低い。どうすべきかと悩んでいる間に、ヘレンはさらに言及した。
「ま、事態を解決するだけなら大した影響はないと思う……けど一番の難題だし、別の問題もある」
「仮に俺達が主導で解決した場合……騎士団の面子が潰れる形になるな」
「町長のあの様子からしたら、騎士団は結局役に立っていないとして、発言力が高まるね」
発言力を高めることが町長の狙いだとして、魔族と結託していたとしたら敵の目論見に乗ってしまうことになる……俺が内心で考えている間にヘレンはさらに話を続ける。
「かといって騎士と協力して事に当たるとしても……もし騎士に魔族との内通者がいたらどうなるか」
「こっちの情報は筒抜けだな……こっちの行動を把握されて、町に被害が出るかもしれない」
さて、どうすべきか……ただまあ、選択肢は一つしかないか。
「何はともあれ、いるかもしれない魔族の居所の把握と、内通者を探すことを優先か」
「そうだね。最大の懸念は本当に魔族がいるのかどうか」
……もしいなかったら、俺達はいないものを探し続けるという無駄を延々やる羽目になる。けど、事態を完璧に解決するならそれしかない。
「長い仕事になりそうだな……で、俺達はどう行動する? 町長と騎士団について調べ始めたら、何をしているんだと追及されないか?」
「町長相手に対しては役所に魔族の気配があった、騎士団にも詰め所で気配があったとすれば、一応説明は成り立つよ」
「大丈夫かなあ……」
「ともあれ、双方の疑いを晴らさないことには先へ進めない」
……仕方がないか。俺が腹をくくった時、料理が運ばれてきたのだった。