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不信感

 ――ヘレンを伴い、俺達依頼をしてきた町長がいる役所を訪れる。そこも色々と動き回っている人が多く、混乱しているのだということが明瞭に分かる。


「ヘレン、どう考えている?」


 俺は指示された部屋へと向かいながら問い掛ける。それに彼女は、


「騎士が忙しくて仕事を頼めないからこっちへ振ってきた……丁度名が通っているディアスやアルザがいるし、という理屈なら説明できるけど」

「何か思うところがあるのか?」

「この町で信頼を得ている冒険者は数多くいるはず。それにも関わらずディアスへ依頼をしたというのがちょっと疑問だね」


 ……国から認められている人間、ということなら町長が直接依頼をしてくるというのはあり得ない話ではない。


「町長がこの町にいる冒険者に依頼をしないってことは……」

「そこに何か理由があると?」

「ま、とりあえず会ってからだね。あ、ディアス達。一つ頼みが」

「何だ?」

「町長はどうやら私のことは知らないみたい……よって今のところは偽名で通して」

「英傑の一人……王族であることは秘密にしておくと」


 小声で指摘すると彼女は頷いた。理由については――


「王族であることを告げると、面倒事になるからか?」

「仕事をする上で説明するにしても、何もかも全部最初に説明する必要はないし」


 ……何だろう、町長に対し何かしら疑義を抱いている雰囲気だな。とはいえ彼女自身それはあくまで疑問であり、根拠があるわけではない。

 ツーランドにおける魔物との戦い。そこに町長とかが関わっているとか考えているのだろうか? いや、それにしたって目的がわからないし、さすがに考えすぎだろうか。


「わかった。真実を告げるタイミングはそちらに任せるからな」


 彼女が頷くと同時に、俺達は町長が待つ部屋へ辿り着いた。そこは十人ほどが囲んで座れる円卓が置かれた会議室。そこに、中年の男性が立っていた。


「お待ちしていました、ディアス殿」


 ヘレンが偽名でなければ最初に名を告げるのは彼女だろうけど……俺は彼へ近寄る。


「ツーランド町長、ドルクス=ヴィーナです」


 そう名乗った相手に対し俺達はそれぞれ名を告げ自己紹介を済ませる。その後、着席して話し合いをすることに。


「まず私達をここに招いた件についてお話し頂けますか?」


 こちらの言葉に町長は頷き、


「はい。皆様には魔族討伐の依頼を行いたいと思っています」

「……それは、騎士達の役目では?」


 実際、調査をしているわけだし……けれど町長は難しい顔をした。


「そこなのですが、現在騎士達の調査は遅々として進んでおらず……いえ、むしろ動いていないという状況に近いかと」


 俺はヘレンは首を向ける。彼女は自分の素性が騎士団には伝わっていると語っていた。まだ情報は得ていないが、町長の言っていることが本当なのか、確かめることはできるよな。


「えっと……何かしら根拠が?」

「無論です。そもそも騎士達はこちらに情報をほとんど伝えてきていないのですが……その動きは明らかに、魔族の調査などしていないことがわかります」


 ここまで断言しているというのは……真実かどうかはわからないが、町長からすれば騎士側に不信感を抱いている、ということなのだろう。


「確認ですが、騎士団と町長はどういう関係性ですか?」


 その問い掛けに町長は軽く咳払いした。


「ああすみません、その辺りを説明しておくべきでしたね。端的に言うとこの町の自治は町長である私と騎士の代表を中心に行われています。とはいえ町の規則などは合議制ですし、誰かに権力が集中しているというわけではありませんが」

「騎士団は政治的な影響力もある、と?」

「はい」


 どこか苦々しい表情を見せる町長。何かしら政治的な対立があるってことなのだろうか? そういう話が絡んでくるとややこしくなるんだよな。


「それで、町長としては独自に動こうと考えたわけですか」

「はい。とはいえ、表向きは町として正式に護衛を雇ったという形にして頂きたい。国に認められた戦士であるディアス様ならば、騎士団も文句は言わないでしょう」


 ふむ、まあどちらにせよ関わる気ではあったので、話が早くなったという形だが、


「それと」


 町長はさらに言葉を続ける。


「可能であれば、騎士団側の動向を探ってもらいたい」

「俺達が?」

「あなたが騎士団に協力すると表明すれば彼らも悪い気はしないでしょう。それを利用し……というわけです」


 ……この様子だと、ヘレンが悪魔を倒したという情報も町長は把握していないな。町の防衛については騎士団に任せているってことかな?


「話はこちらから通しておきます。ああそれと、ここでのお話についてだけはご内密にお願いします。体裁としては、騎士団と協力態勢なので」


 ……なんだか話が複雑だな。町長は何かしらの理由で騎士団に不信感を持っているのは間違いないみたいだが。

 俺達はどういう風に立ち回るべきか……単純な魔族討伐ではないと感じた時、ヘレンが俺へ視線を投げた。


 俺はその意図を汲み取り、町長へ告げる。


「わかりました。ご依頼、引き受けましょう――」


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