共闘
――ポーション屋で講習を受けて数日後から俺達は冒険者ギルドに入って仕事を始めた。
ちなみにヘレンと仲間達はちゃんと引き合わせた。ただ俺は「余計なことはするなよ」と言って牽制はしておいたけど。当のヘレンは「わかったわかった」と笑いながら返答したが……とりあえず、何事もなく仕事をこなすことができている。
共闘ということで、連携を確認する意味合いでも俺達とヘレンは一緒に仕事をした。その際、ミリアなんかは彼女の戦いぶりに驚愕していた。まあそこについては当然だろうと思ったのだが――
「はああっ!」
気合いの入ったヘレンの声と共に剣が放たれる――彼女が得意とする武器は一般的な長剣だが、それを魔法で色々と強化し、光によってリーチを長くしていた。下手するとニックが放つような豪快な一撃……それに比肩しうるだけの威力を持ち、見事魔物を粉砕する。
彼女が剣に付与した光……実質魔法剣と言ってもいいその武器こそ、彼女の持ち味。普段から背負っている剣そのものは普通に売られている物と同等であり、彼女は剣を媒介にして魔法剣で戦うというスタイルだ。
やろうと思えば物理的な剣など使わずとも魔法剣を生み出すことはできるのだが、魔力の節約をしたいとか、そういう観点で普通の剣を所持している。それに重装備で武器がないとくれば、冒険者として訝しげな目で見られるという要因もある。
「よし、これで終わりだね」
と、引き受けた魔物討伐依頼――その目標を倒し、ヘレンは満足げに語った。俺はそれに頷いて、ミリアやアルザに撤収しようと呼び掛ける。
ヘレンが加わっての戦いは今日で三度目。魔物がツーランドを襲い掛かったのが原因なのか、近隣の町や村から魔物討伐の依頼が多数舞い込んでいた。それはおそらく、騎士が魔族を追い掛けていることも関係している。普段は騎士が駆除している魔物も、手が回っておらず冒険者ギルドへ依頼が来ているのだ。
かといって騎士達は魔族を優先している……そうした状況に不満を持つ人間もいるみたいだが、ひとまず魔物討伐については問題なく対応できている。ただ、
「長期間この状況だと、まずいことになるかもしれないな」
俺の呟きに対しヘレンは「かもね」と応じる。ミリアやアルザも同意するのか小さく頷いた。
今はまだ対処できている。ただ、王都が襲撃にあったことで王国内の騎士は忙しなく動いている。たぶん他の町から増員を頼もうにも、対応してくれない可能性が高い。
なおかつツーランドへ魔物がやってきて以降、少しずつではあるが魔物の数が増えているらしい……というのはギルドの見解だ。それは魔族の仕業なのか、それとも魔物が大量に現れた余波なのか――
「少しずつ、状況は悪くなってる感じ」
アルザが言う。そこでミリアなんかは深刻な表情を浮かべるのだが、
「ま、ここで嘆いたって始まらない」
気分を変えるように、ヘレンが口を開いた。
「ギルド側も調査はしているみたいだし、ここは待つしかなさそう」
「……まあ、そうだな」
聞けば騎士団だけでなく冒険者ギルドの調査を開始している。一応俺達も手伝えることがあるかと確認したが、ギルド側は大丈夫だと返答した。
「索敵などもやっているみたいだし、今後はもっと効率良く魔物討伐できる態勢ができる……後は、騎士が追っている魔族が見つかれば」
「……なあヘレン。本当に魔族はいると思うか? 悪魔がいたという事実から可能性は高そうだけど」
「もし騎士の調査で見つからなかったら、二つの可能性に行き当たる」
俺はどういう理由なのかはわかっていた。するとここでヘレンは俺を見て、
「その二つ、わかる?」
「……まず、魔族は既に逃亡しているパターン。敵の目的は不明だが、ツーランドを襲い被害を与えようとした……その目論見については失敗している。よって、周辺にはいない」
「うんうん、冒険者ギルドとしてもそんな見解をしているみたい。もう一つは?」
「魔族は気配を殺して潜んでいる。王都襲撃から始まる騒動の中で、魔族は人間に技術を与えていた。しかも、それによって一定の成果を得ていた。故に、人間が用いる索敵魔法をすり抜ける何かを考案していてもおかしくはない」
「もしそうだったら、意外に町の近くに潜んでいる可能性もあるかな?」
「それどころか、町中という説も否定できないな」
「そんな大胆なことする?」
問い返してきたのはアルザ。まあ見つかれば即刻アウトである以上、わざわざ町中に潜む理由はどこにもないと思うのだが、
「敵がツーランドの町へ攻撃する……その目的を優先しているのなら、十分あると思う。問題はこの町を襲って何をするのかだけど……」
この町でなければならないのか、それとも……色々と推測している間に俺達は町へ戻ってくる。そして報酬を受け取った時、受付の女性が声を掛けてきた。
「あの、皆様に新たな依頼が来ているのですが」
……ヘレンは偽名なので、俺かアルザの名を知って依頼をしたのかな?
「その依頼主は?」
「この町の、町長です」
……俺はヘレンへ視線を送る。彼女も予想外といった表情をしていた。どうやら話は、次のフェイズへと突入したらしかった。