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縁の無い世界

「では、講義を始めます」


 俺とヘレンはテーブルに設置された椅子に座り、店主であるトールから話を聞くことに――ふと、ここで授業みたいだなと思った。

 貴族の子供が通うような上等な学校に通った経験はないが、一応読み書きに関することは授業というもので学んだことがある。むしろそのくらいしか経験がなく、戦士となって以降は講義などと呼ばれるものに対し縁の無い世界に住んでいた。


 トールは相当に気合いの入ったテキストを俺達に渡す。紙は結構な枚数あるのだが……これを一夜で作成したとなると、俺達の素性を知って気合いを入れたのかもしれない。


「ポーションの基礎的な部分から説明しましょう。効能を決めるのは投入する薬草の種類に加えて注入する魔力です。魔力を加える方法は魔石の欠片を使います。そして、ポーションそのものの効果は薬草によって、その効果量は注ぐ魔力によって決まります」

「魔力を加えたら加えただけ効果が強くなりますか?」


 と、ヘレンは手を上げながらトールへ敬語で問い掛けた。あれだ、完全に教師と生徒である。

 そんな言動にトールは苦笑しつつ、


「残念ながらそうはなりません。これは二つの要因があり、一つは魔石に加えられる魔力量に制約があること。薬草と魔力、そして薬液を加えてポーションは作り出されますが、魔石はその薬液に溶けなければ魔力が浸透しません。薬液が溶かせられる魔石の大きさには限度があるため、必然的に限界点が存在します。けれど」


 と、トールは一度俺達に渡したテキストを見る。


「そこに記してありますが、やり方を色々工夫すれば効率良く、さらに大きな効果を発揮できるようになる……ですが、単純に魔力を多くすればいいという話でもない。魔力は薬草の効果を増幅させる効果があるのですが、そこにはバランスも必要です。これが二つ目の要因となります」


 ――と、トールは様々な解説を加え、事例を紹介しながら講義を進めていく……俺は強化魔法を軸として魔法を学んできたわけだが、あくまで戦闘面のことだけであり、こういう知識はほとんど仕入れてこなかった。

 魔法、という分野に関しても、知らない部分は多い……そんなことを頭の中で呟く間にも解説は進んでいく。横を見ると、ヘレンは目を輝かせて聞いている。


「……なんといいますか」


 と、ここでトールは彼女の姿を見て笑った。


「その、ヘレンさんはずいぶんと興味を示されていますね」

「元々、知識欲があるからね。知らないことを知るというのは好きなのよ」

「なるほど、しかしこうした知識は役に立つのでしょうか? ディアスさんもそうですが、ポーションの作成手段を学んだとして……」

「――魔物、ひいては魔物との戦いというのは何が役に立つのかわからない」


 トールの発言に対し、俺は告げる。


「だから、色んな知識を仕入れておいた方がいい……と、俺は悟った」

「ポーションの生成についても?」

「単純にポーションを作成するだけじゃなく、違う分野だからこそ何か役立つかもしれない……まあ俺が興味を持ったのは本当にポーションそのものを作成してみたいという思いからであって、他の何かで役立つかも、というのは後付けではあるんだけど」


 そこで俺は一度資料を見据える。


「英傑というくくりで呼称される俺達であっても、自分の知識外の話は興味があるし役立つと思ってるよ」

「そうですか……魔族相手ともなると、大変なのですね」

「そうだな……まあ、さっき心理みたいに語った何が役に立つのか……という点については、気付いたのが魔王との戦い後だから、先に気付いておけよと内心で思ってしまったけどな」

「あ、それは私も同じだった」


 俺の意見に賛同するようにヘレンは述べた。


「別に魔王を舐めていたわけじゃないし、万全の準備をしたつもりだったけど……知識のなさというか、色々足りないなあと感じたね」

「ああ、それは間違いない」

「……英傑という領域に至ってもその向上心、見習わなければなりませんね」


 気を引き締め直すトール。そこまで硬くならなくても……と言いかけた時、彼は柔和な笑みを浮かべた。


「私の知識でどこまでご納得させられるかわかりませんが、頑張ります。では、先に進みましょう。テキストについてはさすがにこの量を一日で、というのは難しいので今回お教えした話を思い出す……もしくは今回行った講義の先を知りたいとなったら、読んでみてください」


 ――そうして彼の解説は進んでいく。ここでふと、俺は講義を聞く行為について、楽しいのだと気付いた。

 今まであまり経験してこなかったからなのか、それとも解説をするトールの姿を見て興味を持ったのか……ともかく、何かしら気にはなった。さすがに教師になろうなどとは思わないにしろ――


「講義、受けてみて正解だったな」


 そんな呟きを、俺はヘレン達に聞かれないように発した。そして意識をトールへ向け、解説に耳を傾け、話に没頭した――


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