証明手段
「話を進めると」
俺は、カップに残ったお茶を飲み干してからヘレンへ告げる。
「王都襲撃とギルド本部襲撃事件は反魔王同盟という組織が関わっている……現時点で目的は不明だが、人間界を脅かそうとしているのは間違いない。そこでさっきヘレンが言っていたやり方を変えた、に行き着くと」
「そうだね。単純な力押し……内通者がいて手引きしてもらったにも関わらず、失敗した事実を勘案したってことだと思う」
「力押しができず……か。魔王との戦い直後で疲弊していたとはいえ、騎士の装備なんかについては魔王との戦いで強化した状態だったし、それでなんとか対処できたといったところじゃないか?」
「かもね……で、まあやり方を変えたとして、言わば人間界の中を混乱させるのが目的だと思う」
「それに乗じて再び王都襲撃……か?」
「王都に乗り込むかは不明にしても、何かしら大きなアクションを起こすつもりなのは間違いないと思う……ただ」
と、ここでヘレンは小首を傾げる。
「問題はなぜこんなに急いでいるのか、だね。魔王との戦いの直後……疲弊した時に狙って失敗した以上、立て続けに動かずもう少しゆっくりやったらいいのに、と思うけど」
「そこは反魔王同盟、だからじゃないか?」
俺の言葉にヘレンは眉をひそめる。
「どういうこと?」
「反魔王同盟の目的はわからないが、名称から魔王という存在に敵対しているのは間違いない。で、人間界で自分達の力を示して魔界の主導権を握る手段をとった……が、新たな魔王が誕生してしまったらどうしたって反体制側になってしまうわけだし、魔王の椅子が空席の間に支持者を集めないと、と考えているのかもしれない」
「お、確かにそれなら説明できる」
「反魔王同盟が一連の事件を仕掛けた、という事実がはっきりしておぼろげながら話の輪郭が見えてきたな……正直、人間界に来るなって感じだけど」
「魔王が潰えた以上」
と、ヘレンは口調を少し重くしながら語る。
「人間界……ひいては聖王国を支配することが、実力を示す最大の証明手段になっているのかもしれない」
「その言い方だと、反魔王同盟どころか魔王候補すらやってくる可能性があるんじゃないか?」
「否定はしないけど、さすがにないんじゃないかなあ。そもそも次の魔王を決めるレースをしているわけで、その際にわざわざ人間界に戦力を……というのは、考えにくいし」
まあそう言われればそうか……。
「ま、今後も反魔王同盟が攻撃してくるのは間違いないと思う」
「やられまくっているのにか?」
「ディアスが言ったように魔王の座が空いている今しか好機がないとしたら、例えやられようが頑張るしかないでしょ」
そう述べた後、ヘレンは悪戯をする子供のような笑みを浮かべる。
「それを私達が直々に叩き潰すことにしようか」
「悪巧みしてそうな顔だな……相手が大規模な行動を起こす前に叩くというのは賛成だし、俺も付き合うよ。けど、ヘレン。俺達の仲間に加わるのか?」
「最初は考えたけど、その辺りは今回の騒動が解決してから判断しようかな」
「……とりあえず、ツーランドで起こった事件を解決するまで、共闘ということだな」
頷くヘレン。俺としては英傑である彼女の協力は心強いけど。
「大丈夫だと思うけど、仲間には確認させてくれ」
「わかってる……で、ディアスは明日以降どうするの? 講習受けるのは確定みたいだけど」
「そちらは情報を得るあてはあるのか?」
「悪魔を倒したのが私だということは騎士側には伝わっているし、詰め所にでも行けば色々と話は聞かせてくれると思う。私だけで赴くのもいいけど……」
と、ここでヘレンは俺と視線を合わせ、
「ただ騎士団は結構動き回っているし、あんまり邪魔するのも悪いかなあ。それに、まだ情報を集めきっていない段階だろうし」
「調べ回って結果が出るまでは様子見ってことか?」
「そうそう。なら……私も講習受けようかな」
「……どうしてそうなる?」
問い返した俺にヘレンは大真面目に、
「なんだか楽しそうだし」
なんというか……興味を持ったものに対しては何でも首を突っ込む性分だからな、彼女。そう長い付き合いというわけではないが、その好奇心の強さは俺も知っている。
「そして役立ちそうだし」
「……なら、今から店に戻って連絡しないと」
「ああ、それなら私がこれから店に戻るから大丈夫。ディアスは仲間に事情を説明しておいて」
そう言って、ヘレンは立ち上がった。
「お代はここに置いておく。それじゃあ明日からよろしく!」
一方的に告げると彼女は立ち去った……それを見送りながら俺は苦笑し、
「……気をつけないと、振り回されるだろうな」
果たして彼女を制御できるのか……そんな不安もあったが、退屈はしなさそうだと心の中で思った。