彼女の推察
というわけで、俺は改めてヘレンと話をする……のだが、含みのある言動をしていたので何か知っていると思いきや、
「実を言うとそれを今調べているところなんだけど」
「お前……俺を巻き込むためにあえて思わせぶりな言い方をしたな?」
「あ、バレた?」
――事あるごとに、他人を巻き込んで騒動に加わる。ヘレンはそういう性分であった。
「そもそも私は魔王との戦い以降で魔族と関わったの、今回が初めてだしね」
「マジかよ……というか、魔族の仕業だと断定はできたのか?」
「戦った悪魔の感触からして、はぐれの群れというわけでは絶対にない。なおかつ、魔物の動きはちゃんと統制が執れていた」
キッパリと断定するヘレン……戦場を見渡し状況を把握する目。その力は指揮官としても高く、自ら戦いながら魔物の動きなどをしっかりと見定めていたようだ。
「誰かが裏で糸を引いているのは間違いない……けど、それが魔族なのかどうかはわからない」
「魔族以外の誰か……人間の仕業もあると?」
「魔王との戦い前だったら、さすがにその可能性はないと断定していたところだけど、前例があるからね」
……俺が関わった一連の事件か。王都襲撃は完全に魔族の仕業ではあるが、あれは間違いなく人間の手引きがあった。
次にギルド本部の襲撃事件。冒険者ギルドの副会長が魔族と結託して何かしら研究をしていた……次いで魔族の力を用いて武器を製造する裏組織。ここまでくれば魔物を操る技法とか研究していてもおかしくない。
「……ヘレン、現段階ではあくまで推測だとして、どう考えている?」
「私は当事者にならなかったからあくまで見聞きした範囲での考察だけど……たぶん、魔王との戦いの後に発生した王都襲撃。あれこそ本命の攻撃だったと思う」
ヘレンはそう語ると、お茶を一口飲んだ。
「あの戦い、一歩間違えれば王都が陥落していた……王城は混乱の極みだったみたいだし、現場判断でどうにか騎士が立ち回っていたみたい」
「そこまで危なかったのか……」
「ディアスが上手いこと敵の総大将に狙いを定めてくれたから、勝てたって感じだね」
「そう言ってもらえると頑張った甲斐はあるけど……あれが本命だとしたら後の事件はどう説明するんだ?」
「やり方を変えたんじゃないかなと」
「やり方?」
そう問い返した直後、俺は口元に手を当てる。
「正攻法での攻撃は失敗した……とすれば、敵としては搦め手を用いることにしたと」
「そう。ギルド本部襲撃と裏組織による武器供与。どちらも王都襲撃と比べれば規模は小さいけど、事件の詳細を鑑みればその事件をきっかけに火がついて、王都襲撃級の事件になっていた可能性はある」
「あくまで王都への攻撃が一大事件だったというだけで、それに続いた二つの出来事は相当ヤバかったけどな」
「まあね……で、魔族がダンジョンを造り入り込んでいるという事実がある以上、いつ何時こうした事件が起きてもおかしくはなかった」
――決して、聖王国はダンジョンの存在に手をこまねいているわけではない。最大限の警戒はするし、相応の対策はしている。それを踏まえた上で、町へ攻撃されるたり人が関わっているというのは、大きな事件であるのは間違いない。
「で、一連の事件……首謀者は同じで、協力している人間も同一人物だと思う」
「根拠はあるのか?」
「これについては最近わかったみたいだけど、王都襲撃を仕掛けた魔物とギルド本部襲撃の際に戦った魔物……その特性が極めて似ていることがわかった」
「……特性?」
「魔力の質とか、そういうの。魔物を生み出す場合、魔族特有の癖がある。つまり魔力の質が違うわけだけど、その差異によって事件に関与しているかを調べることができる」
「おお、なるほどな……で、結果として似ていたと」
「同一の魔族により生み出されたものとは違うみたいだけど、製法が似通っていたみたい」
「つまり、魔物の生成技術を共有している……反魔王同盟として手を組んでいる者とそうでないものを識別する意味合いとかありそうだな」
「うん、その魔力の質とか波長で敵か味方か見極めているのかも」
魔族としては、まさか人間がそこまで解明できるとは思わないよな……間違いなく、情報戦として一歩リードできる話だ。
「で、この話は英傑間でしか共有してない」
「……どういうことだ?」
「魔力を検証したのはエーナが動員したギルドの研究者。で、その報告はクラウスへ直接。そして英傑達で共有した。私はシュウラから聞いた」
「……俺に話したのは、関わらせようとする意図でもあるか?」
「気にはなるでしょ? 色々首を突っ込んでいるわけだし」
俺は素直に頷く。間違いなくそこは本心だ。
「で、英傑達が動いて裏切り者を探す……ということでいいのか?」
「そうだね。クラウスが内側を探るとしたら、私は外って感じかな。まあ私もつい最近情報もらって活動し始めたくらいだし、知っているのはここまで」
「それまでは何をしていたんだ?」
「まあブラブラと」
あちこち旅していたのだろう。俺よりよっぽど旅を楽しんでいるなあ、などと思ったりした。