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王族の英傑

 出会いたい時に会えず、会いたくない時に会えるという不可思議なその王族は、小説や物語に出てくるようなさすらいの英雄みたいなことをしており、聖王国内各地を回っている。


 その目的は……まあなんというか、ヘレンの場合はあんまり城に近づきたくないという理由も大きい。傍から見れば美人だし多数の貴族から声が掛かって当然くらいのレベルなのだが、本人が武芸にしか興味がないものだからまったく声が掛からない。というより「私を嫁にできる人間は私より強い者だ」とか公言して王族を困らせているくらいである。


 元々武芸の才能があり、修練したことで手を付けられない存在になってしまった……と、王族関係者は語っていた。いた、と表現するのは彼女に対する意見が英傑入りしたことで覆ってしまったためだ。


 王族でありながら英傑という特異性は、魔王との戦いで遺憾なく発揮された。総大将を務めたのは他ならぬ彼女。王族故の教養から軍略も優れており、最前線における戦いはクラウスが守り、エーナが援護し、ニックが暴れ彼女が指揮するという戦いで成立していた。そして残る英傑であるシュウラが指揮官としての彼女を補助し、セリーナが魔法で戦う……そうした中で俺は強化魔法を駆使していたわけだ。


 で、先ほど店主――トールの言葉から察するに、


「世間では偽名で通しているのか?」

「ディアスには言ってなかったっけ?」


 俺達はオープンカフェでお茶をする。冒険者二人ということで変な目で見られるかなと最初思ったが、俺らみたいな客が他にもいたため、町の風景の一つとして溶け込んでいる。


「そうだよ。さすがに王族が歩き回っている状況、人に知られたら面倒でしょ」

「……まあ確かにそうだけど」


 それじゃあ話も出てこないわけだ。


「ただギルド証は? さすがにそこについては身分を偽れないだろ?」

「ギルド証も偽名」

「おい」

「許可はちゃんと得てるよ。エーナも了承済み」


 それならいいのか……俺はお茶を飲みながら改めて彼女の姿を確認する。

 冒険者としての格好であるため、その顔つきに反して重装備なのだが、お茶を飲む所作については普通の人からは出ない気品がある。見た目的なこともあって、ただ者ではない……という風に認識させることはできるだろう。


「で、改めて訊くけどディアス。ここに来た理由は?」

「なんとなく」


 即答した結果、ヘレンは眉をひそめた。


「……反魔王同盟とかいうわけのわからない存在を倒して回っているとかじゃなくて?」

「情報はきっちり得ているみたいだな……というかどうやって……まあいいや。傍から見たら魔族を追い掛けているように見えるけど、全部偶然だよ」


 と、俺はここまでの旅路について語る……ちなみに彼女は俺の旅の同行者についても知っていたし、なおかつミリアが魔族であることもわかっていた。たぶん情報の出所の一つはシュウラだな。


「ふむふむ、なるほど」


 と、彼女はお茶と共に頼んだケーキセットを食べながら俺の話を聞く。


「で、魔族にマークされている危険性から、色々知識を得ようとしたと」

「ああ。トールさんから確約はもらったからポーションの作成講座は受けるけど……」

「なんというか真面目だねえ」

「仲間がいるからな」


 俺の言葉にヘレンは押し黙る。ただ納得という表情はしていた。


「……それで、今度はこちらから話をする番だな」


 ここで俺が口を開く。次いで、さらに踏み込んだ内容について喋ったのだが――


「待った」


 途中でヘレンが俺を呼び止めた。王城の中に裏切り者がいる……そうした点について話そうとした段階だ。


「何を言うのかおおよそわかったけど、一ついい?」

「私のことは信用するのか、だろ?」


 先読みして問い掛ける俺にヘレンに小さく頷いた。


「うん。まあこの段階で尋ねるのも変な話だけど」

「俺がヘレンのことをどう考えているのかを喋っておくのは必要だろうし、語っておくけど……王城内に裏切り者がいるとした場合、さすがに王様の権力を高めるなんて目的ではないだろ」

「そうねえ」

「だとすれば、国家転覆を狙っている……だとしたら、国王に忠誠を誓うヘレンならば絶対に裏切り者ではない、と言えるかと」


 その指摘に対し、他ならぬヘレンは笑った。


「ずいぶんと信用されているようね」

「共に戦った期間もそれなりにあるし、ヘレンの考えていることは多少ながらわかっているつもりだ。それに、シュウラから情報を得ているみたいだし、アイツが事情を説明している以上、信用していいだろうと」

「信用してくれてありがと。なら完全に信頼してくれるように、この町の騒動も主導的に解決して見せようか」

「……反魔王同盟絡みなのか?」


 問い掛けにヘレンは表情を戻す。そして、


「関わるのであれば、話すけど?」


 ……俺はその言葉に対し、小さく息をついた。さすがにこの状況下で、引き下がるという選択肢はなかったのであった。


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