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来客

 今後、俺が魔族と関わり合いになるのかどうかはわからない……が、現時点で既にそこそこ首を突っ込んでいる以上は巻き込まれる危険性はある。

 よって、ポーションなどを生成できるような技能を持っておくと、何か役に立つかもしれない……そこまで考えないといけないのか? という疑問はついて回るけど、やっておいて損はないはずである。


 それに、と俺は頭の中で付け加える。俺は基本、戦士としての技術を磨き魔法を体得してきた。違った形の技術とかを学んでみたいという興味もあったので……ポーション作成というのは、その手始めとしてはよさそうだ。


「これって受講したいと申し出ればすぐにやってくれるものなのか?」


 ――店主は驚いた。まさかそんな言葉が出てくるとは、という予想外の雰囲気。


「え、はい……」

「現在忙しそうだけど」

「納品についてですか? 確かに大変ですがそもそも材料がない面もあるので……」


 それで止まっている部分もあるのか。


「ええ、構いませんよ。ただ、誰彼構わずということではありません。冒険者ギルドに所属している人間であることが必須ですが」

「ああ、それなら大丈夫。ギルド証を見せればいいのか?」

「はい」


 俺は懐から取りだして差し出した。店主はそれを受け取ると一瞥し、


「……あなたは……もしや……」


 ちなみに俺のギルド証には金縁の装飾が施されている。それはギルドだけではなく国からも認められた戦士の証。

 この人は装飾の意味もわかっているらしい……俺は小さく頷き、


「本物だよ」

「……七人目の英傑と呼ばれる人ですし、こうした技術は必要ないのでは?」

「どんな噂を聞いているのかは知らないけど、俺ができるのは仲間の強化と支援。ポーション作りなんてことはやったことなくてね。興味があって申し出たんだが」

「そうですか……ご満足頂けるのかわかりませんが、尽力はします」


 そう述べると店主へ俺へ笑みを向ける。


「私の名はトール=アルバーです。さすがに準備は必要ですから、講座は明日になりますが……昼過ぎに一度店に来てください」

「わかった」


 とりあえず、今日のところは町中を見て回って……そんな風に考え店を出ようとした――その時だった。

 店の扉が突然開いた。俺みたいな客かなと思いつつ、踵を返し立ち去ろうとした……のだが、


「やあっ! 最近はどうだい!」


 ――ずいぶんと勝ち気な女性の声だった。それに反応した店主、トールは苦笑し、


「お久しぶりですね。まったくお変わりないようで」


 知り合いかつ、久方ぶりの来客らしい……のだが、俺はそんな会話を聞きながら相手の姿を確認した。

 冒険者風の格好をした女性……ではあるのだが、ずいぶんと重装備であった。体は革製の鎧ではあるのだが、俺はそれが鋼の鎧と比較しても遜色ない防御力を持っていることを知っている。


 両手には小手、足には具足……加えて剣を背負っているのだが、腰にも短剣などを差している。その出で立ちは傍から見れば戦場を渡り歩いた豪傑……と、感じなくもないが武装している当人が燃えるような赤い髪を持つ美人とくれば、誰もが二度見するくらいに違和感がある。

 よくよく見ると背丈はそれなりにあるけど腰は細いし体格は女性的であることがわかる。顔つきもまつげは長いし小顔だしで武装していなければ町中から声を掛けられまくること間違いなし……で、俺は彼女に見覚えがあった。なぜなら――


「ん?」


 相手が俺に気付いた。で、向こうもこちらが誰であるのに気付いたため、


「ヘレ――」


 名前を言いかけた時、彼女はおもむろに俺に接近して突如右手を突き出し、無理矢理口を塞いだ。


「やあやあ久しぶりだねディアス。元気にしてた?」

「……お知り合いなんですか?」


 店主から問い掛けてくる。そこで彼女は、


「うんそうだね。以前何度か仕事で」

「……英傑と肩を並べる方とお知り合いだとは」


 ん? と最初俺は疑問に思ったのだが相変わらず口を塞がれているので喋れない。ただ、どういう状況なのかは概ねわかってきた。


「それじゃあ再会を祝ってお茶でもしない?」


 そして口を塞いだまま俺へ提案してくる。断ってもたぶん無理矢理に理由を付けられそうなので、小さく頷く。

 というわけで、店主が半ば呆然とする中で俺達は外に出た……で、その直後に問い掛ける。


「確認だが、何故ここにいる?」


 俺の問い掛けに対し相手は笑いつつ、


「騒動があったでしょう?」

「……何か兆候があったからここに来たのか?」

「違う違う。たまたま近くにいたから戦っただけ」

「……悪魔を倒したのはヘレンなのか?」


 俺は名を呼ぶと――彼女、ヘレンは頷いた。


「そうだね」

「まあヘレンなら納得だけど……」


 と、俺は彼女へ顔を向けながら、


「俺が何をしているのかは知っているのか?」

「まあ大体は。ここに来たということは、首を突っ込もうという判断なの?」

「……偶然なんだけどな」

「ほう? なるほどね? それじゃあ互いの近況報告も兼ねてお店に入ろう」


 ――そんなグイグイ来るような雰囲気と共に彼女が先導する――俺としては、目標の一つがあっさりと見つかって拍子抜けしているところだ。

 彼女の名はヘレン=ラドフォート=エルデア。王族にして『六大英傑』の一人である。


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