興味
ポーションそのものは色々な手法で製造され流通している。一番多く流通しているのは、魔術師ギルドが作成した大量生産のポーションである。
本来は騎士団に支給される物なのだが、魔物討伐などをする冒険者のためにも国内で流通している。時には普通の人が怪我を治すために購入するケースもある……大量に作るから安価で冒険者も手に取りやすい。反面、特別な効果を持たせるというのはあまりできない。
効果をシンプルにすることで大量生産を可能にしているわけだ……ちなみに魔法技術を利用するため、応用すれば色んな種類のポーションを作成できる。例えば頭の痛みを治す物とか、足の傷を優先して治すとか。ただそういう風に指向性のある物を作ろうとすると高価になってしまうし、量も少ないため流通されることはあまりない。
では様々な効果を与える物が欲しい場合は……個人で作成しているポーションを購入することになる。魔術師ギルドから独立した人とかが個人経営で店を開くパターンがこれである。ここの店主はどうやらその類い……というのも、魔術師ギルドに所属していたという身分証が掲示されているためだ。
こういう個人で制作するポーションは当然ながら割高になる。それに同じ治療系のポーションで同じ材料であっても効果にムラが多少出てしまう……調合などを個人でやっている以上は分量などに差が出てしまうのは当然なので、こればかりは仕方がない。
けれど個人制作であるため融通が利くし、冒険者単独で欲しい物がある場合は頼るケースも多い。実際俺が持っている魔力回復のポーションは大量生産品ではなく個人経営の店から購入した物だ。効果のほどは確かだし、俺も信頼している。
ただし、当然ながら問題点もある。一番大きいのは当たり外れがあること。個人個人で調合の技量が違うため、粗悪品をつかまされる危険性だってある。まあ信頼できる人を見つけるか紹介してもらえれば話は別だけど。
で、この店の場合は……初めて入ったが、それなりに繁盛しているし騎士団から納品を頼まれていることから実績があるようだ。加えてポーションに目を凝らすと、瓶の奥に存在する液体には間違いなく魔力が宿っている。うん、かなり良い品だと思う。
実は俺も戦士団のメンバーから頼まれてポーションを作成したことがある。その時の経験でこういう物を作るのがいかに大変なのかを認識している……普通に魔法を使うとは全然やり方が違う。だから店主が丁寧に仕事をして騎士団にも評価されている、ということなのだろう――
ふと視線を店主へ向けてみる。そこで、彼は作業の手を止めた。
「何かご興味が?」
「……ああ、まあちょっと」
察しがいいな、と思いつつ俺は応じる。
「ポーションを見ると、一つ一つ色合いが違うし、多種多様な種類があるのはわかる……種類が多いのがこの店の特徴かな」
「はい、そうですね。やっぱりこういう店舗を構える以上、何かしら特色がないと厳しいと判断しまして……」
そう述べつつ小さく笑う店主。
「とはいえ、一人で細々とやっている程度で、今回の需要に全部お応えすることが難しいというのが実情でして、心苦しい限りです」
「さすがに魔物の強襲を受けるなんて想像すらしていなかっただろうし、仕方がないんじゃないか?」
俺は答えつつ……店内のある一点に注目した。張り紙があり、そこに記述されていたのは、
「……ポーション作成講座?」
「はい。材料については集める必要がありますし、その手間を考える自作するというのは割に合うかどうかはわかりませんが、基本的な技術を学ぶというのは冒険者にとって有効かと思いますので、簡単に解説できる講座というのを開いているんです」
と、言いつつも店主は苦笑する。
「ただ、実際に受講した方は多くはありませんが」
「大抵の冒険者にとってポーションは作るより買う物だからな」
とはいえ……俺はふと考える。
「あのさ、一ついいか?」
「どうぞ」
「例えば講座を受けたら、自分で色んなタイプのポーションとか作れたりするのか?」
「……材料を用意する必要性はありますが、基礎的な部分はお教えしますので作れるようにはなるかと思います。ただし、効果のほどは専門の人間と比べれば……」
まあそうだよな。素人に毛が生えた人間とその道のプロでは全然違うだろう。
「ただ、ご本人の力量でカバーできる面はあります」
「力量?」
「魔力量です。ポーションは魔力を注いだ分効果を発揮する。もちろん、大量に注ぐと大きな副作用もありますし、魔力酔いを発生する危険性はありますが……込める魔力によって生成の技量をカバーすることはできます」
ほう、なるほど。個人の能力によって効果を引き上げられるというわけか……販売されているポーションは基本、そういう違いを出すとムラが出るためやっていないが、個人制作ならば利点にできるというわけか。
俺は彼の話を聞いて興味を示した……理由は、今後の旅路でこういう能力が必要になると考えたためだった。