脇道と本筋
その後、俺達はこの町に留まるべきか旅を再開するのかを話し合うことに。何でそんなことをするかというと、ここへ来る目標は立てていたけどそれはあくまで旅の道すがらということで、ここで観光をしようという意図ではなかったので。
まあミリアやアルザは色々と情報収集をしていたので、観光名所を回ることはできるけど……ただ、
「私、観光協会みたいな場所を訪れたんだけど」
と、アルザがここで言及する。
「魔物が発生したことで、事態が落ち着くまでは観光は控えてくださいというお達しを請けたけど」
「ずいぶんと警戒しているな」
「それと、町に出現した魔物の規模だけど……」
そこからアルザが説明する。城壁が破壊されたという事実から結構魔物が出現したらしいが……規模的にはまあまあといったところ。魔物討伐を行う際に戦うくらいではあるが、さすがに大軍勢というわけではない。
「城壁は悪魔のような敵がいて、その魔法攻撃によって壊れたみたい。騎士団は結界を張って防御したけど……」
「なるほど、な。それでも突き破られて城壁が破壊されたと」
「そうだね。その悪魔は冒険者が倒したみたい」
「結界を貫通するような魔法を操る魔獣となったら、相当強いと思うんだが……冒険者が単独で?」
「戦いを見ていた人はそう言ってたよ。ただ、誰なのかは知らないって」
「ふむふむ……」
悪魔がいたとなったら、騎士団が魔族を探しているのも無理はない……ただ肝心の悪魔は滅んでいる。魔族自体が町から距離を置いている可能性もある。
「長期戦になりそうだな……」
「そうだね。騎士団も事件発生後から動きっぱなしらしいよ」
「大なり小なり疲労が溜まっているだろうな。それに、町の規模は大きいにしても常駐する騎士の数は決して多くないだろう。町の人口と比較した場合……例えば四方囲まれた時とか、守り切れるかどうか」
今回は対応できる数だったので良かった。けれど、もし王都襲撃の際に出現したくらいの規模であったなら――
「ディアス、どうする?」
ミリアが問い掛ける。この場合の問い掛けは、滞在するか離れるかということだろう。
事件に関わるのであれば当然、町に留まって調べ回るわけだが……なんというか、また仕事をするのか? という疑問に行き当たる。
現状、無理矢理介入できるけれど場合によっては調査の邪魔になる危険性だってある。故にもし索敵をする場合でもしっかり騎士団と連絡を取ってから……ただ、そこまで首を突っ込むと当然、最後まで戦う形になるだろう。
うーん、果たしてそれでいいのだろうか……ここまで来たらもう関わり続けて真相をつかむまでいくべきだろうか――
「ディアス」
ふいに、ミリアが俺の名を呼んだ。
「そこまで思い詰めなくても……」
「……思い詰めてるかなあ」
「改めて言うけれど、ディアスのしたいようにすればいいんじゃないかしら?」
俺のしたいように、なあ。
「その、ディアスとしては一連の事件……そこに友人であった魔族アヴィンのことも絡んでいる。よって、決して無関係ではないし関わろうとするだけの理由はあるはずよ」
「……そうだな」
「一方で、自分探しをしているわけだけど……この旅の主題がそれだとしても、別に脇道に逸れてもいいのではないかしら」
「脇道……」
「まあ傍から見たら自分探しが脇道で、魔族との戦いが本筋に見えてしまうけど」
……まあ「魔族討伐は自分探しの合間にやっています」とか言われたら、なんだそれと思うのは至極当然だろうな。
とはいえ、積極的に関わるというのも……かといって観光するにも厳戒態勢に近しい状況であるため難しい。
俺は色々と考えた後……ミリア達へ告げる。
「なら、明日は自由行動にしよう。もちろん、町の外に出ないようにするけど」
「自由行動?」
「情報収集してもよし、騎士団が事件を解決した後、観光名所を回るため調べてもいいし、そこは自由。俺はひとまず町をブラブラしてみて、何をするか考えるよ」
たまには頭を空っぽにして町中を歩いてみるのもいいだろう……ガルティアで似たようなことはやったけど、その時は色々と考えていたし。
その言葉にミリアとアルザは納得したか相次いで頷いた。
「よし、それじゃあ今日のところは休むか……時間的にも丁度良さそうだし」
結局情報集めと話し合いで夕刻近くになってしまった。この町で何かをするにしても、明日以降だ。
その言葉にミリアとアルザも同意し――ツーランドへ入って一日目は終了したのだった。