巻き起こる騒動
俺とアルザ、そしてミリアの三人は聖王国の東部へ足を向け、旅を続ける。その方角へ向かう理由そのものはないにしても、一応今後やっていきたいことはある。
その一つが『六大英傑』の一人……この旅を通して既に四人の英傑と顔を合わせた。そして所属していた戦士団で常日頃顔を合わせていたセリーナを除けば残る一人。
その人物は王族ながら好き勝手に旅をしており、所在についてはわからない。会いたいと思った時に会えず、会いたくないと思った時に顔を合わせるという不可思議な人物ではあるのだが、まあ情報集めくらいはやろうという話だ。
で、進路を東に向けている間も一応、魔族に関する情報を集める……俺達が関わった王都襲撃から始まる一連の事件。その全てに関係があるのかは不明だが、魔界側が動いているとなったらまた騒動が起こるかもしれない。
そしてそれは間違いなく王都を中心に巻き起こっていく……俺達は王都から離れるわけで、さすがにもう関わる可能性は低いんじゃないかと思うんだが――
「そうやって言うと、逆に何かありそうな気がしてこない?」
「嫌なこと言うなよ……」
アルザの言及に対し、俺は苦笑しながら応じる。
現在は生まれ故郷ガルティアから結構離れ、ようやく東部と呼ばれる領域に足を踏み入れたところ。何事もなければこのまま東部最大の町を訪れることになる。
犯罪組織撲滅の仕事を請け負って以降は、平和な旅路が続いた。俺達を阻むような人はいなかったし、時折簡単な仕事を引き受けることで旅費も稼ぐことができたし……ということで、問題は何一つなかった。
ここまでは順調であり、予定通り宿場町へ到達したのだが……そこで一つ気になる話を得た。
「……魔族の出現騒動?」
酒場で情報収集していると、店主からそういう話が飛び込んできた。
「ああ、ここからさらに東……ツーランドって町で騒動があった」
そこは向かおうとしている東部最大の規模を誇る町だ。交通の要所であり、大規模な物流拠点でもある。
「魔物が出現して、冒険者や騎士が動員して倒したって話だ」
「……それが魔族によるものだということか?」
「魔族は発見されていないが、魔物の動きがやけに統制取れていたって話だ。よって町の騎士団は魔族による襲撃だと結論づけた」
酒場の店主は苦い顔をする。
「まったく、魔王を倒したっていうのに次から次へと騒動だな……現在は魔族を探しているらしい。まあ騎士団が言っているだけみたいだし、本当は魔族なんていないのかもしれないが」
……東部においても、騒動があるらしい。もしかすると、聖王国全土で戦いが起ころうとしているのだろうか?
もしそうであれば……などと考えつつも、俺達にできることとしては騒動を解決することだけ――
「関わるの?」
で、翌日街道を進んでいる最中、ミリアが俺へ問い掛けてきた。
「ただ騎士団が動いているとなったら、関われないかもしれないけれど」
「……店主の話によると、冒険者と騎士が並び立って戦い魔物を倒したらしい。つまり、ツーランドの騎士団は魔物を見て冒険者ギルドに依頼をしたわけだ」
そう述べた後、考察を語る。
「つまり、魔物を見て騎士団だけでは対応できないと判断したわけだ。それは魔物の数が多かったからなのか、それとも悪魔のような見た目をした強力な魔物でもいたのか……そこは不明だが、とにかく町の危機であると感じたわけだ」
「つまり、ギルドを介せば私達も参戦できるということだね」
と、アルザが俺の言葉に対しそう述べ、こちらは頷いた。
「その通り。仕事そのものはできると思う……が、魔物そのものは倒したみたいだし、俺達の出番はないかもしれない」
そこまで解説したのだが……ミリア達は俺へ視線を向け沈黙する。
「……二人とも、気になるのか?」
「ディアスが関わらないというのであれば問題ないよ」
アルザは言う。ミリアも同意のようで小さく頷くと、
「私達だけで関わろうという意思はないし、そこについてはディアスの判断でいいと思うわ。もちろん、ディアスが決めたのであれば私達は従う」
「そうだね」
「……まあ、ツーランドへ入ってみて情報を漁ろうか。それで関わるべきかどうか判断するということで」
「その言い方だと、関わりそうだけどね」
……先日の事件を解決した後、観光名所とかを回るという話はなんだったのかと言いたくなるかもしれないが……なんというか、俺達が訪れる場所全てで騒動が起こっているので、もしかして魔族側はわざとやっているのではなどと思ってしまうが……偶然なんだろうな。
「訪れる町で騒動が起きているというのは、運が悪いよな……」
「あるいは、魔族が活発に動いているせいかもしれないわ」
ミリアが言う。そうであれば、現在聖王国内全体で騒動が起こっているということになってしまうのだが――
「……まあいい。とにかく調べてから結論を決めよう」
そう告げ、俺は街道を真っ直ぐ見据え歩み続けたのだった。