幕間:来訪者(中編)
エーナとノナが待っていると、 部屋に入ってきた一人の人物。その姿を見てエーナ達の間に緊張が走るのだが、
「……確かにここへ来るのは初めてなのだから、何事かと身構えるのはわかるけど」
相手は――女性は、苦笑混じりに声を上げた。
「別に喧嘩を売るつもりとかはないわよ?」
――ギルド本部を訪れたのは、エーナと同じ『六大英傑』のセリーナであった。
「ちょっと訊きたいことがあって来たのだけれど」
「王都からわざわざここまで来た以上、結構大事のような気もするけど……」
「あなたくらいしか、頼れる人がいなかったから」
――頼られたのは少しばかり嬉しいが、今までに無い出来事であるためどうしても自然と身構えてしまう。
そんな様子を見て取ったかセリーナは肩をすくめる。
「まあいいわ……それで質問だけれど、ディアスの居場所を知っている?」
「……へ?」
ここに来ただけでは飽き足らず、まさか彼女の口からディアスの名が出るとはと、エーナは目を丸くする。
「えっと……どういう理由で……?」
「理由について説明する必要があるの?」
若干言葉が刺々しかったので、エーナは半ば我に返るように、
「ごめんごめん……えっと、ディアスについてだけど、手紙は来ていたしどこで何をしていたかは書かれているけど、現在はもう旅の空だと思うよ」
「そう……探して連絡を寄越すことはできる?」
思わぬ要求。エーナが沈黙しているとセリーナは、
「……正式に仕事として依頼すればいいの? 人探しということなら、ギルドは受理してくれるでしょう?」
「まあ、それなら」
「ただ、私がディアスを探しているとなったら色々と面倒な噂が立つだろうから、可能であれば秘密にしておいて欲しいのだけど」
その言葉を受け、エーナは思考する。
彼女の言っていることは理解できる。まあ彼女自身が蒔いた種ではあるのだが――ここへ押し入るくらいなのでよっぽど秘密にしておきたいのだろう。
依頼であれば請けるのは別に構わないとエーナは思う。理由についても、必ず確認しなければいけないというわけでもない。どういうことなのかと疑問には思うし、何より個人的に訊きたいところではあったが――
「一つ、よろしいですか?」
セリーナの言葉に対し、最初に応じたのはノナだった。
「理由については先ほど語りませんでしたが、それでもあえて尋ねます。なぜディアスさんを探しているのですか?」
セリーナの表情がやや強ばる。しかし、ノナは構わず続ける。
「ギルドにも戦士団『暁の扉』に関する事柄は入ってきています。無論、ディアスさんの一件も。私達は以前ディアスさんと顔を合わせて一緒に仕事をしました。冒険者ギルド本部の騒動に手を貸してくださったわけですが……」
「それは私も知っている」
「ええ、つまりこちらはあなた方の事情を、公的な話や噂話で聞いています……セリーナさんが何かしら無茶をするような御方でないことは百も承知ですが、それでもなぜ、ここでディアスさんを探すのか……そこについては、彼のことを知っている以上は確認したい」
「仕事上の理由ではなく、個人的な考えで訊こうとしているってこと?」
「そう受け取ってもらって構いません。無論、話す必要はないと斬って捨てても構いませんし、それでも仕事は請け負いますが……私達が多少ながら不信感を持つことについてはご容赦頂きたい」
ピクリ、とセリーナは身じろぎした。エーナはずいぶんと無茶をするなあ、とノナに対し内心思う。
ただ同時にセリーナ相手に有効な手段であることも理解する――戦士団の副団長として、信用を得ることが何よりも重要だと考えているはず。であれば、不信感を持つと表明したノナに対し、言及しなければ信用が得られないということになるわけだ。
では、セリーナの反応は――少し間を置いてから、彼女は話し出す。
「……別にディアスの活動に対し嫉妬しているとか、そういうわけじゃない。そもそも彼を追い出したのは私で、それでけしかけたら単なる逆恨みじゃない」
「では何故?」
「……話をする前に、こちらから一つ質問をさせて。私がディアスを半ば追い出したことはわかっている思うけれど、それに対しどう思った?」
「正直私は、やり方が性急すぎたかと思います」
と、ノナはセリーナへ向け提言する。
「魔王を討伐したタイミングで、というのはきっかけとしてはあり得た話ですが、最大の問題は彼の影響力を過小評価していたことでしょうか」
「そこについては認める」
「ディアスさんが戦士団内において難しい立場であったのはわかります。古参かつ、七人目の英傑として所属している……で、魔王討伐をきっかけに国も戦士団との関係を変えていくだろうとあなたは考えたはず。そうした中で戦士団そのものを変えていくために、彼の存在は厄介のタネになる……と、そこまで考え切り出したと推測します」
さすが、とエーナは内心で舌を巻いた。ノナの分析は間違いなく正解だろう――実際、他ならぬセリーナが否定せずただ話を聞き続ける様子を見て、間違いないと感じた。